結論 日報という書類に保存義務はない
建設業法にも労働安全衛生法にも「日報を◯年保存すること」という条文はない。義務があるのは、日報に書かれている中身のほうだ。足場の点検結果と点検者の氏名、下請への支払額と支払日、工事目的物の引渡し日、現場に入った人の氏名と職種。これらはそれぞれ別の条文で、別の年数が決まっている。
だから判断の順番は「日報を捨ててよいか」ではない。「この日報にしか残っていない法定記録はどれか」を先に洗い出す。そこさえ別の場所に確実に残っていれば、日報の紙そのものは会社の判断で扱える。逆に、点検者の氏名が日報の隅にしか書いていないなら、その日報は法定記録の実体になっている。
建設業法で残す義務があるもの
根拠は建設業法第40条の3。建設業者は営業所ごとに帳簿を備え、その帳簿と、営業に関する図書を保存しなければならない。年数は建設業法施行規則第28条で決まっている。
| 対象 | 保存期間 | 起算日 |
|---|---|---|
| 帳簿(規則26条1項の記載事項) | 5年 | 工事目的物の引渡し日。請負契約に基づく債権債務が消滅したときはその日 |
| 帳簿の添付書類(契約書面の写し、下請代金の支払を証する書面、施工体制台帳の一部) | 5年 | 同上 |
| 発注者と結んだ住宅を新築する工事の帳簿と添付書類 | 10年 | 同上 |
| 営業に関する図書(規則26条5項) | 10年 | 工事目的物の引渡し日 |
| 現場に備え置く施工体制台帳と掲げる施工体系図 | 引渡しまで。債権債務が消滅したときはその時まで | 規則14条の7。年数ではなく終期の定め |
起算日は契約日でも完成検査日でもなく、引渡し日。ここを完成日で数えていると、工事によっては数か月ぶんずれる。住宅新築の10年は、発注者が宅地建物取引業者でない場合の話で、宅建業者からの受注は5年側になる。この除外は規則26条1項3号の括弧書きにあり、そのまま28条にも及ぶ。
帳簿に書く事項
- 営業所の代表者の氏名と、その者が代表者になった年月日
- 請け負った工事の名称と工事現場の所在地
- 注文者と契約した年月日、注文者の商号または氏名と住所、注文者が建設業者ならその許可番号
- 完成を確認する検査が完了した年月日と、目的物を引き渡した年月日
- 発注者と結んだ住宅新築工事なら、その住宅の床面積、建設瑕疵負担割合、住宅瑕疵担保責任保険法人の名称
- 下請に出した工事の名称と現場、下請契約を結んだ年月日、下請の商号と住所と許可番号、検査完了日と引渡しを受けた日
- 特定建設業者が下請代金を支払ったときは、支払った額と年月日と支払手段。手形なら金額と交付日と満期、一部払いなら残額、遅延利息を払ったならその額と日
2025年12月からは見積書も10年の対象になった
改正建設業法は2025年12月12日に完全施行された。建設業法第20条第1項に「材料費等記載見積書」が置かれ、工事の種別ごとの材料費と労務費、適正な施工に不可欠な経費、その他の必要経費の内訳、そして工程ごとの作業と準備に必要な日数を書いた見積書を作るよう努めることになった。
これに合わせて、施行規則第26条第5項の「営業に関する図書」に、この材料費等記載見積書と、その見積書の内容について注文者と交わした打合せ記録が加わっている。10年保存の対象だ。
注意が必要なのは、立場によって残す図書が違うところ。
| 立場 | 10年保存する図書 |
|---|---|
| 発注者から直接請け負った建設業者(施工体制台帳を作らない場合) | 完成図/発注者との打合せ記録/材料費等記載見積書/見積書に関する打合せ記録 |
| 施工体制台帳を作る建設業者(作成建設業者) | 上の4つに施工体系図を加えた5つ |
| それ以外(下請の立場) | 材料費等記載見積書/見積書に関する打合せ記録 |
作成建設業者は特定建設業者だけではない。公共工事では、公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律第15条第1項の読替えにより、下請契約を結んだ建設業者は金額にかかわらず施工体制台帳を作る。一般建設業の許可で公共工事を元請している会社は、図書が5つ側になる。
下請の立場でも、材料費等記載見積書を作れば10年の保存対象になる。図書の保存は元請だけの話だと思っていた会社は、ここが変わっている。なお完成図と発注者との打合せ記録は「施工上の必要に応じて作成し、または受領した」ものが対象で、見積書に関する打合せ記録は「請負契約締結の前に必要に応じて作成した」ものが対象。作っていないものを新たに作れという規定ではない。
施工体制台帳を作る金額の線
2025年2月1日から、施工体制台帳の作成を要する下請代金の下限は5,000万円(建築一式工事は8,000万円)。同じ日に特定建設業許可の下限も同額になり、専任の監理技術者を置く下限は4,500万円(建築一式工事は9,000万円)に上がった。
施工体制台帳の記載事項には、工事に従事する者の氏名と生年月日と年齢、職種、社会保険の加入状況、中小企業退職金共済の被共済者かどうか、受けている安全衛生教育の内容、保有資格が含まれる。いわゆる作業員名簿にあたる部分は、様式の慣習ではなく法定の記載事項だ。ただし保有資格だけは、本人が希望しない場合は記載対象から外れる。
労働安全衛生法で残す義務があるもの
労働安全衛生法第103条第1項が、この法律とこれに基づく命令にもとづいて作った書類を保存せよと定めている。個々の年数は省令側にある。建設と設備で使うものを抜き出すとこうなる。
| 記録 | 保存期間 | 根拠 |
|---|---|---|
| 足場の点検記録(悪天候後、中震以上の地震後、組立・一部解体・変更の後)。点検結果と点検者の氏名、補修等の措置の内容 | その足場を使う作業を行う仕事が終了するまで | 安衛則567条3項 |
| 特別教育の記録(受講者、科目等) | 3年 | 安衛則38条 |
| 安全衛生委員会の記録(委員会の意見と講じた措置、重要な議事) | 3年 | 安衛則23条4項 |
| 高所作業車の定期自主検査の記録(検査年月日、方法、箇所、結果、実施者の氏名、措置の内容) | 3年 | 安衛則194条の25 |
| 健康診断個人票 | 5年 | 安衛則51条 |
| リスクアセスメント対象物のばく露の状況の記録 | 3年(がん原性物質は30年) | 安衛則577条の2第11項2号 |
| がん原性物質を扱う労働者の氏名、従事した作業の概要、従事した期間の記録 | 30年 | 安衛則577条の2第11項3号 |
| 石綿の事前調査・分析調査の結果の記録 | 3年(調査終了日から) | 石綿則3条7項 |
| 石綿の粉じんを発散する場所での作業記録 | 40年(常時従事しなくなった日から) | 石綿則35条 |
足場の毎日の始業前点検(墜落防止設備の取外しと脱落の有無)には、記録の義務が条文上ない。記録が義務なのは、悪天候後や組立変更後の点検のほう。ただし事故が起きたときに「その日どこを見たか」を示せるのは日々の記録の側なので、義務の有無と実務の必要は別に考える。
労働時間の記録は別の法律で動く
労働者名簿、賃金台帳、雇入れや解雇や災害補償や賃金に関する重要な書類は労働基準法第109条で5年。ただし附則第143条の経過措置により、当分の間は3年とされている。安衛法の年数とも建設業法の年数とも別建てなので、同じ棚に入れるとどれかが足りなくなる。
出し方も2025年から変わっている
2025年1月1日から、労働者死傷病報告などの手続は原則として電子申請になった。対象は死傷病報告のほか、総括安全衛生管理者・安全管理者・衛生管理者・産業医の選任報告、定期健康診断結果報告、心理的な負担の程度を把握するための検査の結果等報告、有害な業務に係る歯科健康診断結果報告、有機溶剤等健康診断結果報告、じん肺健康管理実施状況報告。
税務の年数と混ぜない
法人は帳簿と取引に関する書類を、その事業年度の確定申告書の提出期限の翌日から7年間保存する。青色申告で欠損金が生じた事業年度(平成30年4月1日以後に開始したもの)は10年間になる。
建設業法は工事ごとに引渡し日から数え、税務は事業年度で数える。数え方も対象も違うので、「うちは7年で回している」で建設業法側が満たせているとは限らない。3月決算の会社が4月1日に引き渡した工事なら、税務の7年は申告期限である5月31日の翌日から数えるので、引渡しから8年2か月で切れる。建設業法の図書10年には1年10か月足りない。
残していなかったときに何が起きるか
| 違反 | 罰則 | 根拠 |
|---|---|---|
| 帳簿を備えない、記載しない、虚偽記載、帳簿または図書を保存しない | 10万円以下の過料 | 建設業法55条5号 |
| 安衛法にもとづいて作った書類を保存しない | 50万円以下の罰金 | 安衛法120条1号 |
金額そのものは大きくない。実害が出るのは別のところで、立入りや許可の場面で記録が出てこないこと、そして事故や紛争になったときに「適正にやっていた」を示す材料が手元にないことのほうだ。点検者の氏名が入った記録が残っていれば、誰が何を見たかを主張できる。残っていなければ、記憶で話すことになる。
電子で残してよい 条件は営業所で出せること
建設業法施行規則第26条の6項から8項が電磁的保存を認めている。帳簿の記載事項はファイルへの記録で代えられ、添付書類はスキャナで読み取ったもので代えられ、営業に関する図書もファイルの記録で代えられる。
条件は条文にはっきり書いてある。必要に応じ当該営業所において、電子計算機その他の機器を用いて、明確に紙面または出力装置の映像面に表示できること。押さえるべきは3つ。
- 営業所で出せること。現場担当者のスマホの中にしかない状態は、条文の要件に届かない
- 引渡し日から年数が経っても取り出せること。担当者が辞めた、アプリを乗り換えた、で消えるなら残していないのと同じ
- 記録すべき事項が欠けていないこと。点検記録なら結果だけでなく点検者の氏名と措置の内容まで
日報を法定記録に寄せる4つの手当て
- 点検の記録には点検者の氏名を書く。結果だけでは安衛則567条3項の要件を満たさない
- 工事ごとに引渡し日を1か所に決めて書く。帳簿も図書も、年数はここから数える
- 下請への支払は額・年月日・支払手段まで残す。手形なら金額と交付日と満期、一部払いなら残額
- 写真は工事と日付に紐づいた状態で保存する。あとから工事単位で取り出せない写真は、記録として使えない
現場が紙に書いて事務所で打ち直す運用だと、点検者の氏名と引渡し日が抜けやすい。抜けたことに気づくのは、たいてい数年後の立入りか紛争のときで、そのときにはもう書き足せない。
道具の話
ソクオヤカタは、現場写真と一言のメモからAIが日報や完了報告の下書きを作り、担当者が確認して出す。写真は案件と日付に紐づいたまま残るので、あとから工事単位で取り出せる。打刻はそのまま労務原価になり、案件ごとの原価と粗利につながる。画面は日本語のほか、ベトナム語・インドネシア語・英語・中国語・ミャンマー語で出せる。
ただし、どの記録が5年でどれが10年かを決めるのは会社側の仕事だ。引渡し日をどこに書くか、点検記録に氏名を入れるかを先に決めておけば、道具はあとから合わせられる。逆は難しい。
よくある質問
- 日報の保存期間は何年ですか
- 建設業法にも労働安全衛生法にも、日報という書類を何年保存せよという条文はありません。年数が決まっているのは日報に書かれている中身のほうで、建設業法の帳簿は5年、営業に関する図書は10年です。まず「この日報にしか残っていない法定記録はどれか」を洗い出し、それが別の場所に確実に残っていれば、日報の紙そのものは会社の判断で扱えます。
- 建設業法の帳簿は何年保存しますか
- 帳簿と帳簿の添付書類は5年です。根拠は建設業法第40条の3と、年数を定めた建設業法施行規則第28条にあります。ただし発注者と結んだ住宅を新築する工事の帳簿と添付書類だけは10年です。この10年は発注者が宅地建物取引業者でない場合の話で、宅建業者からの受注は5年側になります。
- 保存期間の起算日はいつからですか
- 工事目的物の引渡し日です。契約日でも完成検査が完了した日でもありません。請負契約に基づく債権債務が消滅したときは、その日から数えます。完成日で数えていると、工事によっては数か月ぶん期間がずれます。
- 見積書も保存する義務がありますか
- 2025年12月12日に完全施行された改正建設業法で、材料費等記載見積書と、その見積書の内容について注文者と交わした打合せ記録が「営業に関する図書」に加わりました。保存期間は10年です。元請だけの話ではなく、下請の立場でも材料費等記載見積書を作れば10年の保存対象になります。打合せ記録は請負契約締結の前に必要に応じて作成したものが対象で、作っていないものを新たに作れという規定ではありません。
- 足場の点検記録はいつまで残しますか
- その足場を使う作業を行う仕事が終了するまでです。根拠は労働安全衛生規則第567条3項で、悪天候後、中震以上の地震後、組立や一部解体や変更の後の点検が対象になります。残すのは点検結果だけでなく、点検者の氏名と補修等の措置の内容まで。毎日の始業前点検には条文上の記録義務がありませんが、事故のときにその日どこを見たかを示せるのは日々の記録の側です。
- 記録を電子データで保存してもよいですか
- 認められています。建設業法施行規則第26条の6項から8項で、帳簿の記載事項はファイルへの記録、添付書類はスキャナで読み取ったもの、営業に関する図書もファイルの記録で代えられます。条件は条文にあり、必要に応じ当該営業所において機器を用いて、紙面または出力装置の映像面に明確に表示できることです。現場担当者のスマホの中にしかない状態は、この要件に届きません。
出典: e-Gov法令検索 建設業法
出典: e-Gov法令検索 公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律
出典: e-Gov法令検索 労働基準法
出典: 国土交通省 持続可能な建設業の実現のため、建設業法等改正法が完全施行されます
出典: 国土交通省 建設業の各種金額要件や技術検定の受検手数料を見直します
SOKUOYAKATA編集部

