未回収は、腕や付き合いの問題として語られやすい話です。実際に効くのは、契約の時点で決めておいた支払いの条件と、遅れた直後に何を書面にしたか。ここでは契約書に入れる項目と、遅れが起きた日からの手順を、条文と公的な窓口の情報だけで並べます。
先に結論
- 契約書に「完成後の支払いの時期と方法」「出来形部分への支払い」「遅延利息の率」「支払いが止まったとき工事を止められること」の4つを入れる。出来形払いと工事の中止は、書いていなければ使えない
- 期日の翌日から動く。3日で書類をそろえ、7日で督促状、14日で内容証明。ここまでは自分でできる
- 元請から下請への支払いには法律の期限がある。特定建設業者が期日を過ぎれば年14.6パーセントの遅延利息が法律上発生する
- 請求できる期間は5年。電話での催促は時効を6か月しか止めない
契約書に書かなければならない16項目
建設業法第19条第1項は、請負契約の当事者が次の事項を書面に記載し、署名または記名押印して相互に交付することを求めています。相手の承諾を得れば電子契約でも構いません(同条第3項)。そして、これらに当たる内容を変更するときは、変更の内容も書面にして交わす必要があります(同条第2項)。
- 工事内容
- 請負代金の額
- 工事着手の時期および工事完成の時期
- 工事を施工しない日または時間帯の定めをするときは、その内容
- 前金払または出来形部分に対する支払の定めをするときは、その支払の時期および方法
- 設計変更、着手の延期、工事の中止の申出があった場合の工期の変更、請負代金の額の変更、損害の負担とその算定方法
- 天災その他不可抗力による工期の変更または損害の負担とその算定方法
- 価格等の変動または変更に基づく工事内容の変更、請負代金の額の変更とその算定方法
- 工事の施工により第三者が損害を受けた場合の賠償金の負担
- 注文者が資材を提供し、または機械を貸与するときの内容および方法
- 注文者が完成を確認するための検査の時期および方法、引渡しの時期
- 工事完成後における請負代金の支払の時期および方法
- 契約不適合を担保すべき責任、または保証保険契約の締結などの措置を定めるときは、その内容
- 履行の遅滞その他の債務不履行の場合における遅延利息、違約金その他の損害金
- 契約に関する紛争の解決方法
- その他国土交通省令で定める事項
契約書で押さえる7か所
未回収に直接効くのはこの7か所です。上の5つは16項目のうちの5つ、下の2つは標準約款から足す条項です。国土交通省の中央建設業審議会が作っている標準請負契約約款を土台にすれば、ゼロから書く必要はありません。約款は2025年12月2日改正版が同年12月12日から実施されています。
| 決めること | 根拠 | 書き方の目安 |
|---|---|---|
| 工事完成後の支払の時期と方法 | 建設業法19条1項12号 | 「引渡しと同時」または「引渡しの日から◯日」と日付で特定する |
| 前金払と出来形部分への支払 | 同5号 | 着手時◯パーセント、上棟時◯パーセントのように回数と割合まで書く |
| 遅延利息と違約金の率 | 同14号 | 率を明記する。標準約款は年14.6パーセント以内としている |
| 価格変動に伴う代金の変更 | 同8号 | 資材が上がったときに協議を申し出る入口を残す |
| 紛争の解決方法 | 同15号 | 建設工事紛争審査会にするか、管轄の裁判所を書く |
| 支払いが止まったとき工事を中止できること | 民間建設工事標準請負契約約款(乙)第28条 | 前払または部分払が遅れ、書面で催告しても払わないとき、書面で通知して中止できる |
| 支払いが済むまで引渡しを拒めること | 同第34条第4項 | 完成払いが遅れているあいだは、目的物の引渡しを拒める |
標準約款(乙)は第18条第2項で、発注者は契約の目的物の引渡しを受けると同時に請負代金の支払いを完了すると定めています。引渡しと支払いを切り離した契約書ほど、回収は後ろにずれます。
遅延利息を書くと請求できる額が変わる
支払いが遅れたときの損害賠償は、契約に定めがなければ法定利率で計算します(民法419条1項)。法定利率は3年ごとに見直され、2026年4月1日から2029年3月31日までも年3パーセントで据え置かれました。ただし、約定利率が法定利率を超えるときは約定利率によります。つまり契約書に率を書いてあるかどうかで、請求できる額が変わります。
| 未払額 | 遅れた日数 | 年3パーセント(定めがない場合) | 年14.6パーセント(契約で定めた場合) |
|---|---|---|---|
| 100万円 | 30日 | 2,465円 | 12,000円 |
| 500万円 | 60日 | 24,657円 | 120,000円 |
| 1,000万円 | 90日 | 73,972円 | 360,000円 |
元請から下請への支払いは法律で期限が決まっている
下請の立場で代金が入らないときは、まず法律の期限に照らします。相手が期限を過ぎているなら、それは交渉ごとではなく建設業法違反の疑いです。
| 場面 | 期限 | 根拠 |
|---|---|---|
| 下請から工事完成の通知を受けた | 20日以内でできる限り短い期間に検査を終える | 建設業法24条の4第1項 |
| 検査で完成を確認した後、下請が引渡しを申し出た | 直ちに引渡しを受ける | 24条の4第2項 |
| 元請が発注者から出来形払いや完成払いを受けた | 受けた日から1月以内でできる限り短い期間に下請へ払う | 24条の3第1項 |
| 特定建設業者が注文者となった下請契約 | 引渡しの申出の日から50日以内のできる限り短い期間 | 24条の6第1項 |
| 支払期日を決めていなかった | 申出の日が支払期日とみなされる | 24条の6第2項 |
| 期日までに払わなかった | 申出の日から50日を経過した日から、支払日まで年14.6パーセントの遅延利息 | 24条の6第4項と施行規則14条 |
24条の6は、下請に入った側が特定建設業者であるときや、資本金4,000万円以上の法人であるときは適用されません(建設業法施行令7条の2)。
特定建設業者かどうかは、発注者から直接請け負った工事で下請に出す総額が5,000万円(建築工事業は8,000万円)以上になるかどうかで決まります。この金額は2025年2月1日に4,500万円と7,000万円から引き上げられました。
支払が遅れた日から何をするか
| いつ | やること | 残すもの |
|---|---|---|
| 期日の翌日 | 入金を確認し、担当者に連絡して新しい期日を聞く | 聞いた内容をメールで送り直して記録にする |
| 3日以内 | 請求書を再送する。検査記録、引渡しの書面、変更指示の写し、出来高の根拠をそろえる | 一式をPDFで保存 |
| 7日 | 期限を切った督促状を送る。工事中なら中止の可能性も書面で伝える | 控えと送信記録 |
| 14日 | 内容証明郵便で請求する。加算料金は480円で2枚目以降は290円増、一般書留にする必要がある | 配達証明を付ける |
| 21日 | 相手が元請で建設業法違反の疑いがあるなら駆け込みホットラインへ情報提供する | 通報内容の控え |
| 30日 | 支払督促を申し立てる。または建設工事紛争審査会にあっせんか調停を申請する | 申立書一式 |
| 60日 | 60万円以下なら少額訴訟、超えるなら通常訴訟。相手の資産が動きそうなら仮差押えを弁護士に相談する | 判決または和解の記録 |
工事の途中で支払いが止まったときは、順番が変わります。先に手を止める判断が要ります。標準約款(乙)第28条を入れてある契約なら、書面で催告し、それでも払われないときは書面で通知して工事を中止できます。完成させてから請求すると、こちらの持ち出しだけが増えます。
相手が動かないときに使える手続き
| 手続き | できること | 費用と条件 |
|---|---|---|
| 駆け込みホットライン(国土交通省) | 建設業法違反の疑いを通報する。建設Gメンの立入検査などにつながる | 通報に手数料はかからない。0570-018-240はナビダイヤルで通話料は発信者負担、平日10時から12時と13時30分から17時。オンラインの情報収集フォームもあり匿名でも情報提供できる |
| 建設工事紛争審査会 | 請負契約の紛争について、あっせん、調停、仲裁を行う | 請求額100万円であっせん10,000円、調停20,000円、仲裁50,000円。500万円ならあっせん18,000円、調停36,000円、仲裁90,000円。ほかに通信運搬費などがかかる。仲裁には仲裁合意書が必要 |
| 支払督促(簡易裁判所) | 書類審査だけで督促を出す。相手が2週間以内に異議を出さなければ仮執行宣言に進む | 手数料は同じ額で訴えるときの半額に2,700円(オンライン申立ては2,500円)を足した額。異議が出ると通常訴訟に移る |
| 少額訴訟(簡易裁判所) | 60万円以下の支払請求を原則1回の審理で決める | 同じ簡易裁判所で年10回まで。被告の申立てで通常訴訟に移ることがある |
請求できる期間は5年で切れる
請負代金の債権は、権利を行使できることを知った時から5年で時効にかかります(民法166条1項1号)。長引いている案件ほど、止め方を間違えると請求そのものができなくなります。
- 電話や訪問での催促は催告にあたり、そこから6か月だけ時効の完成を止める。繰り返しても効果は伸びない(民法150条)
- 協議を行う旨を書面か電磁的記録で合意すれば、最長1年止まる(民法151条)
- 本当に止めるのは、裁判上の請求、支払督促、調停の申立て(民法147条)
- 相手が支払いを約束する書面を出したり、一部を払ったりしたときは、時効はそこから数え直しになる(民法152条)
未回収の多くは追加工事でもめている
止まっている案件をたどると、金額そのものではなく「頼んだ、頼んでいない」で止まっていることが多い。建設業法が契約内容の変更まで書面を求めているのは、そこが揉めるからです。口頭の指示で動いた追加工事は、請求の段になって根拠が出せません。
- 追加や変更の指示は、その日のうちに書面かメールにして相手へ送り返す
- 写真は工程と日付が分かる形で残す
- 検査と引渡しは、日付と立会者を書いた記録にする
- 請求書には数量と単価で出来高の根拠を添える
記録が残る形にしておく
未回収の場面で効くのは、請求書の文面より、いつ何を指示され、誰が何日入り、いつ引き渡したかが日付つきで残っていることです。督促状も内容証明も、その裏づけがあって初めて相手が動きます。裏を返せば、記録が現場任せになっている会社ほど、回収が個人の記憶に左右されます。
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この記事は制度の説明であって、個別の案件についての法律判断ではありません。金額が大きい、相手の資金繰りが危ないといった場面は、動く前に弁護士に相談してください。
よくある質問
- 請負契約書には何を書けばいいですか
- 建設業法19条1項は、請負契約の当事者が16項目を書面に記載し、署名または記名押印して相互に交付することを求めています。未回収に直接効くのは、工事完成後の支払の時期と方法(12号)、前金払と出来形部分への支払(5号)、遅延利息と違約金の率(14号)、紛争の解決方法(15号)の4つです。出来形払いと工事の中止は、契約書に書いていなければ使えません。国土交通省の中央建設業審議会が作っている標準請負契約約款を土台にすれば、ゼロから書く必要はありません。
- 工事代金の遅延利息は何パーセントですか
- 契約書に定めがなければ法定利率で計算します(民法419条1項)。法定利率は2026年4月1日から2029年3月31日までは年3パーセントです。約定利率が法定利率を超えるときは約定利率によるため、標準約款にならって年14.6パーセント以内の率を契約書に書いてあるかどうかで請求できる額が変わります。100万円が30日遅れた場合、年3パーセントなら2,465円、年14.6パーセントなら12,000円です。
- 下請代金はいつまでに支払われますか
- 元請が発注者から出来形払いや完成払いを受けたときは、受けた日から1月以内でできる限り短い期間に下請へ払うことになっています(建設業法24条の3第1項)。特定建設業者が注文者となった下請契約では、引渡しの申出の日から50日以内のできる限り短い期間という期限もかかります(24条の6第1項)。支払期日を決めていなかったときは、申出の日がそのまま支払期日とみなされます(24条の6第2項)。期日までに払わなければ、申出の日から50日を経過した日から支払日まで年14.6パーセントの遅延利息がつきます(24条の6第4項と施行規則14条)。
- 代金が払われないとき工事を止められますか
- 民間建設工事標準請負契約約款(乙)第28条を入れてある契約なら、前払または部分払が遅れ、書面で催告しても払われないときに、書面で通知して工事を中止できます。同第34条第4項では、完成払いが遅れているあいだ目的物の引渡しを拒めます。どちらも契約書に書いていなければ使えないので、契約の時点で入れておく条項です。完成させてから請求すると、こちらの持ち出しだけが増えます。
- 請負代金の時効は何年ですか
- 請負代金の債権は、権利を行使できることを知った時から5年で時効にかかります(民法166条1項1号)。電話や訪問での催促は催告にあたり、そこから6か月だけ時効の完成を止めるだけで、繰り返しても効果は伸びません(民法150条)。本当に止まるのは、裁判上の請求、支払督促、調停の申立てです(民法147条)。相手が支払いを約束する書面を出したり、一部を払ったりしたときは、時効はそこから数え直しになります(民法152条)。
- 内容証明郵便の費用はいくらですか
- 内容証明の加算料金は480円で、2枚目以降は290円が加わります。内容証明にするには一般書留にする必要があり、相手に届いたことを残すために配達証明も付けます。支払期日から14日を目安に、督促状のあとに送る位置づけです。
出典: 建設業法(e-Gov法令検索)
出典: 民法(e-Gov法令検索)
出典: 民事訴訟法(e-Gov法令検索)
出典: 国土交通省 建設業法違反の情報提供窓口(駆け込みホットライン)
出典: 国土交通省 建設工事紛争審査会 紛争処理に要する費用
出典: 国土交通省 報道発表 建設業の各種金額要件や技術検定の受検手数料を見直します
出典: 裁判所 少額訴訟
出典: 日本郵便 内容証明
SOKUOYAKATA編集部

