見積・請求最終更新 9

建設業の見積で失注する理由 内訳の見せ方と追加工事の伝え方

金額で負けたと思っている案件が、金額の前で止まっていることがある。制度と統計から見積書の直し方をまとめた。

結論を先に書く。見積で競り負けたと感じたとき、金額の前に確かめたいことが三つある。工事の範囲が読み取れるか、内訳が一式でなく比べられる形になっているか、あとでいくら増えるかが先に書いてあるか。値段の交渉は、この三つを片づけてから始まる。

施主が見積書に感じている不安の中身

国土交通大臣から住宅紛争処理支援センターの指定を受けている住宅リフォーム・紛争処理支援センターは、施主が受け取った見積書そのものを預かって中身を見るサービスを続けている。2024年度に見積書の送付を受けた169件を集計すると、相談内容は「単価や合計金額は適正か」が92.9%、「工事内容や工事項目は適切か」が85.2%。助言のほうは「工事範囲や工事内容の確認点について」が94.7%で最も多かった。

  • 見積書を取った事業者は1社だけが73.9%。2社以上は26.1%
  • 見積書の書式は工種別が79.3%、部位・部屋別が20.3%
  • 計上されている諸経費の割合は5%以上10%未満が43.2%、5%未満が29.5%

相見積りに負けたと思っている案件の裏で、そもそも1社しか見ていない施主が7割を超えている。少なくともこの集計の範囲では、施主は他社と見比べているのではなく、目の前の1枚を読み切れずに判断を止めている。同センターの2024年度の電話相談では、リフォーム相談が11,920件、新築相談が11,682件で、集計上はじめてリフォームが新築を上回った。

この割合は、見積内容に不安を感じて相談してきた人の集計で、市場全体の平均ではない。ここから失注の理由そのものは出せない。ただ、迷っている施主が見積書のどこを見ているかは、この数字が一番近い。

2025年12月から見積書の中身は法律が指定している

改正建設業法は2025年12月12日に全面施行された。第20条第1項は、工事の種別ごとの材料費と労務費、適正な施工に不可欠な経費の内訳、そして工程ごとの作業とその準備に必要な日数を記載した見積書を作るよう努めること、と定めている。不可欠な経費の中身は建設業法施行規則第13条の12が指定している。

書く欄中身
材料費工事の施工に直接使う材料の調達費用
労務費職人に払う賃金の原資。雇用の諸経費や一般管理費は混ぜない
法定福利費工事に従事する者の健康保険料等の事業主負担額
安全衛生経費建設工事従事者の安全及び健康の確保に関する経費
建退共掛金建設業退職金共済契約に係る掛金
作業日数工程ごとの作業と、その準備に必要な日数

交付は努力義務ではない。注文者から請求があったときは、契約が成立するまでに交付しなければならない(第20条第4項)。受け取った側は内容を考慮するよう努める。さらに、通常必要と認められる材料費等の額を著しく下回る見積りを出すこと(第2項)も、そう変えろと求めること(第6項)も禁じられた。求めに応じた額で契約した発注者には、適正な施工の確保を図るため特に必要があると認めるときに限り、許可行政庁が勧告できる(第7項)。対象となる契約の下限は500万円、建築一式工事なら1,500万円になる(施行令第6条の2)。

国土交通省のガイドラインは、数量や単価の内訳がない見積書、法定福利費や安全衛生経費の内訳を書かない見積書を、建設業法上望ましくない行為事例として名指ししている。工事一式という1行は、もう置きどころが狭い。
読む前に範囲を押さえておきたい。このガイドラインは、個人が発注する工事で専ら自ら利用する住宅や施設を目的物とする取引を対象から外している(工期等に影響を及ぼす事象の通知のうち、注文者から出す分を除く)。個人の施主から直接請けるリフォームでは、ガイドラインの行為事例はそのまま当てはまらない。ただし建設業法の条文は相手が誰でも効く。内訳を明示することも、追加工事を書面にすることも、やることは変わらない。

内訳の見せ方は鑑1枚と別紙に分ける

国土交通省が示した見積書の様式例は、合計金額と主要な内訳を並べた鑑を1枚置き、その裏づけを別紙に回す形になっている。専門工事業者が注文者へ出す見積を想定した参考資料なので、施主向けにそのまま使う前提のものではない。借りるのは骨格だけでいい。施主は鑑で全体をつかみ、引っかかった行だけ別紙に降りる。

  1. 鑑は暮らしの単位で並べる。浴室、外壁、分電盤まわり。統計では書式の79.3%が工種別だが、施主が判断するのは部屋と部位の単位
  2. 別紙は工種別に、数量と単価を入れる。国交省のQ&Aは、どこまで詳述するかは当事者間のニーズ次第としたうえで、内訳根拠が説明可能であることを前提に置いている
  3. 諸経費は隠さず1行で出し、率の根拠を社内で言えるようにする。安全衛生経費を率で計上する場合は、自社の施工実績から経費率を算出し、その算出根拠を明示することが求められている
  4. 端数調整は、内訳明示が求められる5つの経費ではなく、それ以外の経費で行う
  5. 有効期限を入れる。国交省の様式例にも見積有効期限の欄がある

一式の見積は、値引きの矛先が総額に向かう。内訳が割ってあると、話はどの行を減らすかに移る。減らせば何が消えるのかが目に見えるので、労務費から削る流れになりにくい。

見積期間は注文者が空ける決まりになっている

見積期間は政令で決まっている(建設業法施行令第5条の9)。やむを得ない事情があるときに限り、10日と15日の区分は5日以内で短縮できる。

工事1件の予定価格見積期間
500万円未満1日以上
500万円以上5,000万円未満10日以上
5,000万円以上15日以上

これは注文者側の義務で、契約内容の提示から契約や入札までに空けるべき期間になる。効いてくるのは、この見積期間が追加工事等に伴う見積依頼にも同様に適用されると、ガイドラインが明記している点。明日までに追加分の金額を、に対して、根拠を持って時間を求められる。

注文者は契約前に、契約書の記載事項のうち請負代金の額を除く全部について、できる限り具体的な内容を示す義務も負う(第20条第3項)。工事内容について最低限示すべきものとして、ガイドラインは7つを挙げている。

  • 工事名称
  • 施工場所
  • 設計図書(数量等を含む)
  • 工事の責任施工範囲
  • 工事の全体工程
  • 見積条件
  • 施工環境、施工制約に関する事項

元請や事業者から請け負う工事で、この7つのうち手元に届いていないものがあれば、そのまま質問状にすればいい。個人の施主が相手なら向きが逆になる。7つは施主に求めるものではなく、こちらが埋めて先に提示する項目になる。範囲と条件を紙にして渡した側が、あとで揉めない。

追加工事の伝え方は着工前に紙にするだけ

追加や変更で契約書の記載事項が変わるときは、その変更の内容を書面にして相互に交付しなければならない(第19条第2項)。ガイドラインは、工事に着手した後や終了した後に書面で契約変更を行ったケースを、違反となる行為事例として挙げている。口頭で進めて、完了後に請求書だけ増やすのが一番まずい。

数量が固まらない段階で止まらない方法も用意されている。全体数量が着工前に確定できず、その都度契約を結ぶのが不合理な場合は、次の3つを書いた書面を着工前に取り交わし、内容が確定した時点で遅滞なく契約変更の手続きをする。

  1. 追加工事として施工を依頼する工事の具体的な作業内容
  2. それが契約変更等の対象となること、および契約変更等を行う時期
  3. 追加工事に係る契約単価の額

資材や職人の高騰にも、契約前に手を打てる場面がある。第20条の2第2項は、天災その他不可抗力によって、主要な資機材の供給の不足や遅延、資機材の価格の高騰、特定の建設工事の種類における労務の供給の不足や価格の高騰が起きるおそれがあると認めるときは、契約を締結するまでに注文者へ通知しなければならないとした(建設業法施行規則第13条の16第2項)。通知は書面で行い、見積書を作るときはそれに添付して渡す(同規則第13条の17第2項)。通知しておけば、実際に起きたときに請負代金や工期の変更協議を申し出ることができ、注文者は根拠を欠く場合などを除いて誠実に協議に応じるよう努めなければならない(法第20条の2第3項、第4項)。

この通知には根拠がいる。ガイドラインは、メディア記事、資材業者の記者発表、公的主体や業界団体が作成した統計資料、過去の同種工事の見積書など、一定の客観性を持つ資料に裏づけられた情報を求めており、一の資材業者の口頭のみの情報は根拠情報から除かれるとしている。資機材の種類、価格の基準日、情報源も併せて書く。なお通知から事象の発生までには相当程度の期間があるものと解されており、工期の短い工事でこのおそれが生じることは一般には想定しにくい、ともされている。

契約書の文言も1つ直しておきたい。価格等の変動に基づく工事内容や請負代金の額の変更と、その算定方法の定めは、契約書の必要記載事項になる(第19条第1項第8号)。ここを変更しない、変更を認めないと書くことは、協議を前提としない規定として第19条第1項に違反すると、ガイドラインは述べている。協議して定めると書き、協議で考慮する事情まで添えるのが安全になる。

その見積書は10年残る

材料費等を記載した見積書を作ったときは、それが保存すべき図書に含まれる。契約締結の前に作成した、見積書の内容に関する注文者との打合せ記録も同じ扱いになる。保存期間は、工事の目的物を引き渡したときから10年(建設業法施行規則第26条第5項、第28条第2項)。言った言わないを潰すための紙が、制度の側から要求されている。

明日から直せる5つ

  1. 工事一式の行を、材料費、労務費、法定福利費、安全衛生経費、建退共掛金、諸経費に割る
  2. 鑑を部位別、別紙を工種別にして、数量と単価を入れる
  3. 諸経費と安全衛生経費の率について、根拠を社内で1枚にまとめておく
  4. 見積書に有効期限を入れる。資材の高騰を通知するときは、価格の基準日と情報源も添える
  5. 追加が出たら、作業内容と契約変更の時期と契約単価を書いた紙を、着工前に1枚

現場写真と一言のメモから見積の下書きを作り、内訳の行を最初から材料費、労務費、法定福利費、安全衛生経費、建退共掛金に分けて持たせているのがソクオヤカタになる。追加が出たときは、その場の写真とメモから変更分の書面の下書きまで出す。打刻がそのまま労務原価に乗るので、出した見積と実際にかかった原価の差も案件ごとに残る。

とはいえ、道具を入れる前でも、上の5つは今日の見積書1枚から始められる。

よくある質問

見積書に内訳を書くのは義務ですか
作成そのものは努力義務です。改正建設業法第20条第1項が、工事の種別ごとの材料費と労務費、適正な施工に不可欠な経費の内訳、工程ごとの作業とその準備に必要な日数を記載した見積書を作るよう努めること、と定めています。ただし注文者から請求があったときは、契約が成立するまでに交付しなければなりません(第20条第4項)。
見積書に書く経費の項目は何ですか
建設業法施行規則第13条の12が指定しているのは、材料費、労務費、法定福利費、安全衛生経費、建退共掛金の5つです。労務費は職人に払う賃金の原資で、雇用の諸経費や一般管理費は混ぜません。これに工程ごとの作業日数を加えた形が、2025年12月12日に全面施行された改正建設業法の求める中身になります。
見積期間はどのくらい必要ですか
建設業法施行令第5条の9で決まっています。工事1件の予定価格が500万円未満なら1日以上、500万円以上5,000万円未満なら10日以上、5,000万円以上なら15日以上です。やむを得ない事情があるときに限り、10日と15日の区分は5日以内で短縮できます。これは注文者が空ける義務で、ガイドラインは追加工事等に伴う見積依頼にも同様に適用されると明記しています。
追加工事はいつまでに書面にしますか
着工前です。追加や変更で契約書の記載事項が変わるときは、その変更の内容を書面にして相互に交付しなければなりません(第19条第2項)。ガイドラインは、工事に着手した後や終了した後に書面で契約変更を行ったケースを、違反となる行為事例として挙げています。全体数量が着工前に確定できない場合は、作業内容、契約変更等の対象となることとその時期、契約単価の額を書いた書面を先に取り交わします。
安全衛生経費は率で計上してもいいですか
率で計上する場合は、自社の施工実績から経費率を算出し、その算出根拠を明示することが求められています。値引きの端数調整は、内訳明示が求められる5つの経費ではなく、それ以外の経費で行います。国土交通省のガイドラインは、法定福利費や安全衛生経費の内訳を書かない見積書を、建設業法上望ましくない行為事例として名指ししています。
作った見積書はいつまで保存しますか
工事の目的物を引き渡したときから10年です(建設業法施行規則第26条第5項、第28条第2項)。材料費等を記載した見積書は保存すべき図書に含まれ、契約締結の前に作成した、見積書の内容に関する注文者との打合せ記録も同じ扱いになります。

出典: 建設業法(昭和24年法律第100号) e-Gov法令検索

出典: 建設業法施行令(昭和31年政令第273号) e-Gov法令検索

出典: 建設業法施行規則(昭和24年建設省令第14号) e-Gov法令検索

出典: 国土交通省 発注者・受注者間における建設業法令遵守ガイドライン(第8版)令和8年1月

出典: 国土交通省 建設工事の見積書様式例 徹底書き方ガイド(運用編)令和8年3月

出典: 国土交通省 報道発表資料 持続可能な建設業の実現のため、建設業法等改正法が完全施行されます(令和7年11月14日)

出典: 国土交通省 労務費に関する基準ポータルサイト

出典: 公益財団法人 住宅リフォーム・紛争処理支援センター 住宅相談統計年報2025

SOKUOYAKATA編集部

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