先に結論 社会保険に入っていないと許可も現場も止まる
建設業の許可を受けるには、適用のある営業所すべてについて健康保険と厚生年金保険と雇用保険の届出を済ませていることが要る。建設業法施行規則7条2号に書かれていて、新規でも5年ごとの更新でも同じだ。加入していなければ許可は下りず、許可を取ったあとに要件を外れれば取消しの対象になる。元請の側にも、適用除外でないのに未加入の会社は下請に選ばないという扱いが求められている。
| 事業所の形態 | 誰について | 雇用保険 | 医療保険 | 年金保険 |
|---|---|---|---|---|
| 法人 | 常用労働者 | 加入 | 健康保険 | 厚生年金保険 |
| 法人 | 役員等 | 対象外 | 健康保険 | 厚生年金保険 |
| 個人事業所 常時5人以上 | 常用労働者 | 加入 | 健康保険 | 厚生年金保険 |
| 個人事業所 常時5人未満 | 常用労働者 | 加入 | 国民健康保険 | 国民年金 |
| 個人事業所 | 事業主本人 一人親方 | 対象外 | 国民健康保険 | 国民年金 |
表の健康保険には、協会けんぽ、健康保険組合のほか、年金事務所で健康保険の適用除外の承認を受けて加入した国民健康保険組合が含まれる。建設国保と厚生年金保険の組み合わせは適切な保険として扱われ、協会けんぽに入り直す必要はない。
許可の要件になったのは2020年10月から
建設業法7条1号は、経営業務の管理を適正に行うに足りる能力を国土交通省令の基準で判定すると書いている。その省令が建設業法施行規則7条で、1号が経営業務の管理責任者等の設置、2号が社会保険だ。2号が求めているのは、健康保険法3条3項の適用事業所にあたるすべての営業所について、適用事業所になった旨の届書を出したことだ。厚生年金保険法6条1項と雇用保険法5条1項の側も同じで、適用を受ける営業所が複数あって一部しか届け出ていなければ、基準を満たしたことにならない。国土交通省は令和元年度の建設業法改正でこの基準を入れ、2020年10月から許可と更新の要件にした。
更新も逃げられない。建設業法6条1項5号は、7条1号と2号の基準を満たすことを証する書面の添付を求めている。同条2項が更新で省略を認めるのは工事経歴書など3種類だけだ。施行規則3条4項は更新のときに営業所技術者に関する書面を省けるとしているが、社会保険の書面にその規定はない。5年ごとに必ず見られる。
添付するのは、様式第七号の三で届書の内容を記載した書面と、その届書を提出したことを証する書面だ。記載事項に変更が出たら2週間以内に出し直す。従業員数だけの変更なら毎事業年度経過後4月以内でよい。施行規則3条1項2号と7条の2第3項。
加入義務があるかは会社の形と人数で決まる
法人は人数に関係なく健康保険と厚生年金
健康保険法3条3項2号と厚生年金保険法6条1項2号は、法人の事業所であって常時従業員を使用するものを適用事業所とする。人数の下限はない。役員1人だけの会社でも、報酬を受けて使用されている以上は対象に入る。個人事業所と違って業種の線引きもない。
個人事業所は常時5人が境目
個人事業所が適用事業所になるのは、健康保険法3条3項1号と厚生年金保険法6条1項1号が並べる業種で常時5人以上の従業員を使う場合だ。土木、建築その他工作物の建設、改造、保存、修理、変更、破壊、解体またはその準備の事業は、この並びに入っている。4人以下なら健康保険と厚生年金の適用事業所ではない。従業員は国民健康保険と国民年金に自分で入る。
雇用保険は人を雇った時点で入る
雇用保険法5条1項は、労働者が雇用される事業を適用事業とすると書くだけだ。人数の条件はない。1人雇えば適用事業になり、法人か個人かも問わない。事業主本人と役員、従業員のいない一人親方は被保険者にならない。
未加入のままだと何が起きるか
| 場面 | 起きること | 根拠 |
|---|---|---|
| 新規に許可を申請する | 許可が下りない | 建設業法7条1号 施行規則7条2号 |
| 5年ごとの更新を申請する | 更新できない | 建設業法6条1項5号 同条2項 |
| 許可のあとに要件を外れた | 2週間以内の届出義務 | 建設業法11条5項 |
| 要件を満たさなくなった | 許可を取り消される | 建設業法29条1項1号 |
| 下請に入ろうとする | 選定しない扱いを国が要請 | 社会保険の加入に関する下請指導ガイドライン |
| 作業員の加入が確認できない | 現場入場を認めない扱い | 同ガイドライン |
29条1項は取り消さなければならないと書いてある。行政庁の裁量ではない。人を雇ったのに届出を忘れていた、5人目を雇ったのに手続きをしていない。そういう手元の話が、そのまま許可の話になる。
未加入業者を下請にできるか
国土交通省の社会保険の加入に関する下請指導ガイドラインは、適用除外でないのに未加入である建設企業は下請企業として選定しないという取扱いを徹底すべきだとしている。2025年12月10日から適用されている改訂版でも同じだ。指導が及ぶのは直接契約している下請だけではなく、その工事に入るすべての下請になる。
確認には建設キャリアアップシステムを活用することとされていて、登録している企業を選ぶことが推奨されている。使わない場合は、保険料の領収済通知書などのコピーを出させたうえで、雇用保険は厚生労働省の労働保険適用事業場検索サイト、厚生年金は日本年金機構の厚生年金・健康保険適用事業所検索システムで裏を取る。相手の自己申告だけで終わらせない。
施工体制台帳を作る工事なら、再下請負通知書の健康保険等の加入状況の欄で確認できる。台帳が要るのは、元請の特定建設業者が結んだ下請契約の総額が5,000万円、建築一式工事なら8,000万円以上になる場合だ。台帳が要らない工事でも、元請は適宜の方法で把握して未加入なら指導すべきだとされている。
作業員が加入していないとき
元請は新規入場者を受け入れるとき、作業員名簿の社会保険欄を見る。空欄の作業員、法人に所属しているのに国民健康保険や国民年金と書かれている作業員、5人以上が載っている個人事業所の名簿で国民健康保険や国民年金と書かれている作業員がいたら、名簿を作った下請に指導する。加入が確認できない作業員は、特段の理由がない限り現場に入れない。
その特段の理由は、ガイドラインで3つに絞られている。
- 伝統建築の修繕など特殊な技能を持っていて 入場を認めなければ施工が困難になる場合
- 社会保険への加入手続き中であるなど 今後確実に加入することが見込まれる場合
- 災害時などの緊急対応の工事で 円滑な施工に著しい支障が生じる懸念がある場合
入場を認めた場合も指導は続く。ガイドラインは、必要に応じて加入指導の記録を保存し、再三の指導に応じない場合はその作業員を入れない扱いにすべきだとしている。記録が無ければ、指導したことも指導が続いていることも示せない。
一人親方をどう扱うか
請負として働いている一人親方は、国民健康保険と国民年金に自分で入る。厄介なのは、実態が雇用なのに一人親方として現場に入れている場合だ。ガイドラインは、次のような場合に元請が気をつけるよう求めている。
- 年齢が10代の技能者が一人親方として扱われている
- 経験年数が3年未満の技能者が一人親方として扱われている
- 働き方自己診断チェックリストで確認した結果 雇用労働者に当てはまる働き方をしている
この場合、元請はその会社に雇用契約の締結と、働き方に合った社会保険の加入と、法定福利費の確保を促す。追加の見積が出てきたら元請と下請で十分に協議する。再三の指導に応じず改善が見られなければ、その会社の現場入場を認めない扱いにするとされている。実態が労働者なのに請負契約にしていれば、偽装請負として職業安定法などの労働関係法令に触れるおそれもある。
法定福利費は見積に書いて出す
2025年12月12日から、建設業法施行規則13条の12が、適正な施工を確保するために不可欠な経費として法定福利費と安全衛生経費と建設業退職金共済の掛金を定めている。法定福利費は、建設工事に従事する者の健康保険料等の事業主負担額のことだ。建設業法20条1項は、工事内容に応じて工事の種別ごとの材料費と労務費とこの経費、その他必要な経費の内訳と、工程ごとの作業と準備に必要な日数を書いた見積書を作るよう努めることを求めている。
同条2項は、そこに書く額が通常必要と認められる額を著しく下回ってはならないとする。4項は、注文者から請求があったときは請負契約が成立するまでに交付しなければならないとする。6項は、注文者の側が著しく下回る変更を求めてはならないとする。保険料は義務として負担する経費なので、見積の段階で確保しておく話になる。
加入率はすでに99パーセントを超えている
国土交通省が2026年3月30日に公表した公共事業労務費調査の令和7年10月調査では、3保険すべてに加入している企業の割合は99.1パーセントだった。労働者単位では95パーセントで、内訳は雇用保険97パーセント、健康保険97パーセント、厚生年金保険96パーセントとなっている。同省は、令和7年10月からすべての建設業許可業者が適切な社会保険に加入しているとしている。
加入がふつうになったぶん、未加入は目立つ。下請に選ばれなかった理由としても、現場に入れなかった理由としても、あとから説明を求められる側に回る。
明日から手を付けるところ
- 営業所ごとに 3つの保険の届出が出ているかを台帳と突き合わせる
- 様式第七号の三の記載事項が変わっていないか確認し 変わっていれば2週間以内に出す
- 協力会社の加入状況を定期に把握する担当と頻度を決める
- 作業員名簿の社会保険欄が空欄のまま現場に入っていないか確認する
- 指導した相手と日付と内容を残す
抜けやすいのは最後だ。指導したかどうかは、あとから記憶では出てこない。日付と相手と中身が残っていれば、元請としてやることはやったと示せる。残っていなければ、やっていないのと見分けがつかない。記録を残す作業そのものを軽くする道具もあるが、何を残すかを決めるのは会社の側だ。
よくある質問
- 社会保険に入っていないと建設業の許可は取れませんか
- 取れません。建設業法7条1号と建設業法施行規則7条2号が、適用のある営業所すべてで健康保険と厚生年金保険と雇用保険の届出を出していることを許可の基準にしています。新規の申請でも5年ごとの更新でも同じ書面の添付が要ります。許可を取ったあとに要件を外れた場合は、建設業法29条1項1号により許可が取り消されます。
- 一人親方も社会保険に加入する義務がありますか
- 従業員を雇っていない一人親方は、健康保険と厚生年金保険の適用事業所にあたらないため、国民健康保険と国民年金に自分で加入します。雇用保険も、労働者を雇っていなければ適用事業になりません。ただし請負契約の形をとっていても、実態が指揮監督を受けて働く労働者であれば、雇用契約を結んで社会保険に加入する必要があります。
- 未加入の業者を下請に使うと元請は処分されますか
- 下請指導ガイドラインは法律そのものではないため、未加入業者と契約したこと自体への罰則は定められていません。ただし国土交通省は、適用除外でないのに未加入である建設企業を下請に選定しない取扱いを徹底すべきだとしています。同ガイドラインは、法令上の義務があるにもかかわらず適切に社会保険に加入しない建設企業を、社会保険に関する法令を遵守しない不良不適格業者と位置づけています。
- 法人ですが役員1人だけです 加入は必要ですか
- 必要です。健康保険法3条3項2号と厚生年金保険法6条1項2号は、法人の事業所で常時従業員を使用するものを適用事業所とし、人数の下限を置いていません。報酬を受けて使用されている役員は対象になります。雇用保険は労働者を雇っていなければ適用事業になりません。
- 下請の加入状況はどこで確認できますか
- 建設キャリアアップシステムを活用して確認することとされていて、登録している企業を選ぶことが推奨されています。使わない場合は、保険料の領収済通知書などのコピーを提示させたうえで、雇用保険は厚生労働省の労働保険適用事業場検索サイト、厚生年金は日本年金機構の厚生年金・健康保険適用事業所検索システムで確認します。施工体制台帳を作る工事なら、再下請負通知書の健康保険等の加入状況の欄でも確認できます。
- 加入していない作業員を現場に入れられますか
- 原則として入れません。元請は新規入場者の受け入れ時に作業員名簿の社会保険欄を確認し、加入が確認できない作業員については特段の理由がない限り現場入場を認めない扱いを求められています。特段の理由は、特殊な技能がなければ施工が困難な場合、加入手続き中で確実に加入が見込まれる場合、災害時などの緊急対応の場合の3つに限られます。認めた場合も加入指導は続けます。
出典: 建設業法(昭和24年法律第100号)e-Gov法令検索
出典: 建設業法施行規則(昭和24年建設省令第14号)e-Gov法令検索
出典: 健康保険法(大正11年法律第70号)e-Gov法令検索
出典: 厚生年金保険法(昭和29年法律第115号)e-Gov法令検索
出典: 雇用保険法(昭和49年法律第116号)e-Gov法令検索
出典: 国土交通省 社会保険の加入に関する下請指導ガイドライン
出典: 社会保険の加入に関する下請指導ガイドライン(令和7年12月10日より適用)
出典: 国土交通省 下請指導ガイドラインにおける適切な保険について(事業所形態別の加入義務一覧)
出典: 国土交通省 報道発表 公共事業労務費調査における社会保険加入状況調査結果の公表(令和8年3月30日)
出典: 公共事業労務費調査における社会保険加入状況調査結果(令和7年10月調査)
SOKUOYAKATA編集部
