原価・資金10

出来高払いと前払金で資金繰りをどう回すか

材料も職人も先に払う。入金は完成の後。この差を埋めるのが前払金と出来高払いで、どちらも契約書に書いてあるかどうかで決まる。

先に結論 前払と出来高払いは契約書に書いた分だけ動く

建設業法19条1項5号は、請負代金の全部または一部の前金払や出来形部分に対する支払の定めをするときは、その支払の時期と方法を書面に記載しろと求めている。逆に言えば、書かなければ代金が動くのは工事完成後の一回だけになる。資金繰りの設計は、着工の準備ではなく契約書を交わす席で終わっている。

  • 公共工事は保証事業会社の保証を付けて 着工前に前払金を請求できる
  • 工事の途中でも 出来形部分に相応する額を部分払として請求できる
  • 元請が発注者から出来形払や竣工払を受けたら 下請へは1月以内に払う
  • 元請が特定建設業者なら 下請の引渡しの申出から50日以内という別の期限もかかる
  • 前払金や部分払が払われないときは 催告した上で工事を止められる条文がある

支払が完成後の一回だけになると何が起きるか

材料費は納品のとき、外注費は月末締め、給料は毎月出ていく。工期が半年あれば、半年分を自社の現金で立て替えることになる。受注が大きいほど手元の現金は減る。決算が黒字でも払えなくなるのはこの順番のせいだ。

埋め方は二つしかない。先に受け取るか、途中で受け取るか。前者が前払金、後者が出来高払いと部分払になる。どちらも法律と標準約款に置き場所が用意されていて、使うかどうかは契約書の書き方の問題になる。

公共工事の前払金は保証を付けて請求する

公共工事の前払金保証事業に関する法律は、請負者から保証料を受け取り、請負者が債務を履行できずに発注者が契約を解除したときの保証金の支払いを引き受ける仕組みを定めている(2条2項)。これを業とするのが国土交通大臣の登録を受けた保証事業会社だ(2条4項)。発注者が着工前に金を出せるのは、この保証があるからで、順番としては保証の手配が先に来る。

中央建設業審議会が作る公共工事標準請負契約約款の35条(A)は、受注者が保証事業会社と保証契約を結び、その保証証書を発注者に寄託して、請負代金額の十分の○以内の前払金を請求できると書く。割合は空欄で、注に「たとえば、四と記入する」とある。発注者は請求を受けた日から14日以内に支払わなければならない。

その先に中間前払金がある。前払金の支払いを受けた後、保証事業会社と中間前払金に関する保証契約を結んで保証証書を寄託すれば、請負代金額の十分の○以内をさらに請求できる(35条(A)4項)。こちらの注は「たとえば、二と記入する」。支払いまでの14日は前払金と同じ規定が準用される。

約款の35条には(A)と(B)の二案があり、(B)には中間前払金の項がない。(A)の注には「受注者の資金需要に適切に対応する観点から、(A)の使用を推奨する」と書かれている。手元の契約書が(B)の形なら、そこは黙って受け入れる話ではなく確かめる論点になる。

前払金は使い道が決まっている

約款37条(A)は前払金の充当先を、材料費、労務費、機械器具の賃借料、機械購入費、動力費、支払運賃、修繕費、仮設費、労働者災害補償保険料、保証料に限っている。例外は一つで、前払金額の百分の○○(注は「たとえば、二十五と記入する」)を超えない範囲なら現場管理費と一般管理費等に充てられる。保証事業会社は、前払金がその工事に適正に使われているかを厳正に監査しなければならない(前払金保証事業法27条)。他の現場の穴を埋める資金ではない。

途中で受け取る部分払の手順

約款38条1項は、工事の完成前に、出来形部分と工事現場に搬入済みの工事材料に相応する請負代金相当額の十分の○以内について部分払を請求できるとしている。注は「たとえば、九と記入する」。請求できる回数も工期中○回と契約で決まるので、工程のどこで資金が谷になるかを見てから回数を決める。

  1. 出来形部分と搬入済みの工事材料の確認を あらかじめ発注者に請求する
  2. 発注者は請求を受けた日から14日以内に 受注者の立会いの上で検査し結果を通知する
  3. 確認があったら 部分払を請求する
  4. 発注者は請求を受けた日から14日以内に 部分払金を支払う
部分払金の額は、請負代金相当額に(○/10 − 前払金額/請負代金額)を掛けた額を超えられない(38条6項)。前払金を先に受け取った分だけ部分払は薄くなる。二回目以降の請求では、すでに部分払の対象になった請負代金相当額を差し引いて計算する(7項)。

設計図書で完成に先立って引渡しを受けるべき部分が指定されているなら、もう一本の道がある。約款39条の部分引渡しで、指定部分の工事が完了したときは完成と引渡しの規定を読み替えて準用し、指定部分に相応する請負代金の額に(1 − 前払金額/請負代金額)を掛けた額を請求できる。

民間工事は契約書の支払方法の欄で決まる

民間建設工事標準請負契約約款(乙)は、個人住宅建築等の民間小規模工事向けの標準約款だ。付属の契約書には「六、支払方法」という欄があり、四つの時点に割合を書き込む形になっている。空欄のまま渡される書式もあるが、注には記載例まで置かれている。

支払の時点約款の注にある記載例
この契約成立のとき一割
部分払 第一回三割
部分払 第二回三割 又は四割
完成引渡しのとき三割 又は二割

比較的大きな民間工事に使う(甲)はもう少し細かい。28条2項は、契約書に別段の定めがなければ、出来高払の請求額を、発注者等の検査に合格した出来形部分と検査済の工事材料および建築設備の機器に対する請負代金相当額の十分の九としている。前払を受けているときは、そこに請負代金額から前払金額を引いて請負代金額で割った率を掛ける(4項)。

前払を頼むと保証人の話が付いてくる。(甲)8条3項は、契約に前払金の定めをする場合、発注者が受注者に対して債務不履行による損害金の支払いを保証する保証人を立てるよう求めることができるとし、4項は、前払をする前に保証人を立てないときは発注者が支払いを拒めるとしている。割合の交渉と保証人の手配は同時に進める。

払われないときに止める条文がある

(甲)37条1項1号、(乙)28条、建設工事標準下請契約約款34条は、どれも前払または部分払の遅れを中止の理由に挙げている。相当の期間を定めて催告してもなお払われないときに工事を中止できる、という骨格は共通する。書面の扱いは条文ごとに違う。(甲)37条1項は催告を書面で行うことを求め、(乙)28条は発注者に書面で通知して中止すると書く。下請約款34条だけが、工事の全部または一部の施工を一時中止できるとした上で、遅滞なくその理由を明示した書面で元請に通知することまで定めている。

支払能力そのものが疑わしいときは解除の側にも道がある。(甲)39条1項3号は、資金不足による手形または小切手の不渡りを出す等発注者が支払いを停止する等により、発注者が請負代金の支払い能力を欠くと認められるときに、書面で通知して直ちに契約を解除できるとしている。(乙)30条1項3号は例示を置かず、発注者が請負代金の支払い能力を欠くと認められるとき、とだけ書く。(甲)には同じ事由で解除まで行かずに工事を止める道もあり、37条4項がそれにあたる。

下請に払う側にかかる期限

場面期限根拠
下請から工事が完成した旨の通知を受けた20日以内に検査を完了する建設業法24条の4第1項
検査で完成を確認した後 下請が申し出た直ちに引渡しを受ける24条の4第2項
注文者から出来形部分に対する支払または完成後の支払を受けた支払を受けた日から1月以内24条の3第1項
特定建設業者が注文者となった下請契約引渡しの申出の日から50日以内24条の6第1項
支払期日を定めなかった引渡しの申出の日が支払期日とみなされる24条の6第2項
期日までに払わなかった年14.6パーセントの遅延利息24条の6第4項 施行規則14条

24条の6が効くのは、元請が特定建設業者で、下請が特定建設業者でも資本金4,000万円以上の法人でもない場合だ(建設業法施行令7条の2)。この組み合わせでは、注文者から支払を受けた日から1月と、下請の引渡しの申出から50日の、早い方が期日になる。発注者からの入金がまだでも50日は動く。

24条の3第3項が見落とされやすい。元請が前払金の支払を受けたときは、下請に対しても、資材の購入や労働者の募集その他工事の着手に必要な費用を前払金として支払うよう適切な配慮をしなければならない。前払金は受け取って終わりではなく、下へ流すところまで条文になっている。同条2項は労務費に相当する部分を現金で支払うよう適切な配慮を求めていて、建設業法令遵守ガイドラインはこの相当分に社会保険料の本人負担分を含むとしている。

国が発注者のときの日数

政府契約の支払遅延防止等に関する法律は日数を直接決めている。給付を終了した旨の通知を受けた日から工事は14日以内に検査を終える(5条)。検査を終了した後、適法な支払請求を受けた日から工事代金は40日以内に払う(6条)。契約の性質上これによることが著しく困難な特殊な内容のものだけ、最長期間に1.5を乗じた日数まで合意で延ばせる(7条)。

前払金の側は、予算決算及び会計令臨時特例2条3号が、保証事業会社により前払金の保証がされた公共工事の代価を、当分の間、前金払をなすことができる経費として挙げている。国の機関では、その割合を各省各庁の長があらかじめ財務大臣に協議して決める(4条)。省庁ごとに割合が違うのはこのためで、入札の公告や設計図書で毎回確かめる。

明日から動かすところ

  1. 手元の契約書を出して 前払と部分払の記載があるか確かめる
  2. 無い契約が続いているなら 次の一件から割合と回数と請求の締切日を書き込む
  3. 公共工事は保証事業会社の保証を先に手配して 着工前に前払金を請求する
  4. 出来形の確認を求めた日 検査の結果を受け取った日 請求した日を案件ごとに残す
  5. 下請への支払は 発注者からの入金日と引渡しの申出日を並べて早い方で決める

日付を残す作業は帳簿の義務とつながっている。特定建設業者が注文者となった下請契約で、下請が特定建設業者でも資本金4,000万円以上の法人でもないときは、支払った下請代金の額と支払年月日と支払手段を帳簿に書く(建設業法40条の3、施行規則26条1項4号ニ)。保存は目的物の引渡しから5年、発注者と結んだ住宅を新築する工事なら10年(施行規則28条1項)。後から思い出して書ける中身ではない。

残す中身そのものは難しくない。案件ごとに、出来形の確認を求めた日、検査の結果を受け取った日、請求した日、入金のあった日、下請へ払った日。この五つが並んでいれば、1月と50日のどちらが先に来るかは数えれば出る。日報や打刻とまとめて残せる形にしておくと、記録のために別の作業を増やさずに済む。

資金繰りは経理の仕事に見えて、決まっているのは契約を交わす席と、出来形を確認してもらう日だ。そこで決まったものを、後から金融機関の窓口で取り返すことはできない。

よくある質問

前払金はどの工事でも受け取れますか
公共工事については、公共工事の前払金保証事業に関する法律に基づく保証事業会社の保証を付けることで、発注者が前金払をする枠組みが用意されています。民間工事に同じ法律の枠組みはなく、契約書に前払の定めを置くかどうかで決まります。民間建設工事標準請負契約約款(甲)では、前払金の定めをする場合に、発注者が受注者へ保証人を立てるよう求めることができるとされています。
民間工事で出来高払いにするにはどうすればいいですか
契約書の支払方法の欄に、部分払の時点と割合を書き込みます。民間建設工事標準請負契約約款(乙)の契約書には、契約成立のとき、部分払の第一回と第二回、完成引渡しのときの四つに割合を記入する欄があり、注に一割・三割・三割・三割という記載例が載っています。建設業法19条1項5号は、この定めをするならその時期と方法を書面に記載することを求めています。
下請への支払はいつまでにしなければいけませんか
元請が注文者から出来形部分に対する支払または完成後の支払を受けたときは、支払を受けた日から1月以内で、かつできる限り短い期間内に払います(建設業法24条の3第1項)。元請が特定建設業者で、下請が特定建設業者でも資本金4,000万円以上の法人でもない場合は、下請の引渡しの申出の日から50日以内という期限も別にかかります(24条の6第1項)。この場合は早い方が支払期日になります。
下請代金を手形で払ってもいいですか
特定建設業者は、支払期日までに一般の金融機関による割引を受けることが困難であると認められる手形を交付してはならないとされています(建設業法24条の6第3項)。建設業法令遵守ガイドラインは、手形期間が60日を超える長期手形はこれに当たる場合があるとしています。労務費に相当する部分は現金で支払うよう適切な配慮も求められており、全額手形払いは望ましくない行為として挙げられています。
支払が止まったとき工事を止められますか
標準約款には中止権の条文があります。民間建設工事標準請負契約約款(甲)37条1項1号、同(乙)28条、建設工事標準下請契約約款34条は、いずれも前払または部分払の支払いが遅れ、相当の期間を定めて催告してもなお払われないときに工事を中止できるとしています。書面の扱いは条文で違い、(乙)28条は発注者への通知を書面で行うと定め、下請約款34条は工事の全部または一部を一時中止した上で理由を明示した書面で元請負人に通知すると定めています。自社の契約書がどの約款に沿っているかを先に確かめておきます。
契約書に支払方法を書かなかったらどうなりますか
建設業法19条1項は、請負代金の額や工事完成後における請負代金の支払の時期と方法を含む事項を書面に記載し、署名または記名押印して相互に交付することを義務づけています。前金払や出来形部分に対する支払の定めをするなら、その時期と方法も同項5号の記載事項です。書かないまま進めると、支払の時期をめぐる主張が食い違ったときに拠りどころが残りません。

出典: 建設業法(昭和24年法律第100号)e-Gov法令検索

出典: 建設業法施行令(昭和31年政令第273号)e-Gov法令検索

出典: 建設業法施行規則(昭和24年建設省令第14号)e-Gov法令検索

出典: 公共工事の前払金保証事業に関する法律(昭和27年法律第184号)e-Gov法令検索

出典: 政府契約の支払遅延防止等に関する法律(昭和24年法律第256号)e-Gov法令検索

出典: 予算決算及び会計令臨時特例(昭和21年勅令第558号)e-Gov法令検索

出典: 国土交通省 建設工事標準請負契約約款について

出典: 中央建設業審議会 公共工事標準請負契約約款

出典: 中央建設業審議会 民間建設工事標準請負契約約款(甲)

出典: 中央建設業審議会 民間建設工事標準請負契約約款(乙)

出典: 中央建設業審議会 建設工事標準下請契約約款

出典: 国土交通省 建設業法令遵守ガイドライン(第12版 令和8年1月)

SOKUOYAKATA編集部

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