人材・労務最終更新 11

建設業の時間外労働の上限規制 違反するとどうなるか

守る数字は5つ、例外は災害復旧だけ、罰則は6月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金です。ここから現場を逆算します。

建設業は2024年4月から、時間外労働の上限規制の対象になっています。5年間あった猶予は終わり、いまは他の産業とほぼ同じルールが罰則付きで適用されます。外れているのは災害の復旧・復興の事業だけで、それも上限のうち一部だけです。まず守る数字から確認します。

守るべき数字は5つ

36協定を結んで労働基準監督署に届け出れば、法定労働時間を超えて働かせることができます。ただし、その協定に書ける時間そのものに上限があります。上限を超える内容の協定は結べませんし、協定の範囲内であっても、実際に上限を超えて働かせれば違反になります。

区分上限休日労働を含めて数えるか
原則(限度時間)月45時間・年360時間含めない
特別条項があるとき年720時間含めない
特別条項があるとき1か月100時間未満含める
特別条項があるとき2〜6か月の平均で80時間以内含める
月45時間を超えられる回数1年に6か月まで
1年単位の変形労働時間制で対象期間を3か月を超えて定めている場合は、原則の限度時間が月45時間・年360時間ではなく、月42時間・年320時間になります。その42時間を超えられるのも、同じく年6か月までです(労働基準法36条4項・5項)。

つまずきやすいのは、数え方が2種類あることです。年720時間は時間外労働だけで数えます。一方で単月100時間未満と複数月平均80時間以内は、法定休日に働かせた時間を足して数えます。日曜に出た分は720時間には入らないのに、100時間と80時間には入ります。ここを混ぜると、年の合計には余裕があるのに月の判定で落ちます。

複数月平均80時間は、過去を引きずるところが厄介です。ある月の判定は、その月単独ではなく、直前1か月・2か月・3か月・4か月・5か月を足したそれぞれの期間の月平均で見ます(労働基準法36条6項3号)。5通りすべてが80時間以内でなければなりません。90時間の月を作った翌月は、意識して落とさないと自動的に違反へ向かいます。

災害の復旧・復興だけ外れる

労働基準法139条は、工作物の建設の事業のうち災害時における復旧及び復興の事業について、当分の間の特例を置いています。ただし外れるのは2つだけです。

  • 適用されない: 1か月100時間未満(休日労働を含む)
  • 適用されない: 2〜6か月平均80時間以内(休日労働を含む)
  • 適用される: 年720時間
  • 適用される: 月45時間を超えられるのは年6回まで
  • 適用される: 原則の月45時間・年360時間

該当するのは災害の復旧・復興の工事そのものであって、工期が遅れている通常の工事ではありません。豪雨で現場が止まって取り返している、という状況はここに入りません。災害復旧を扱う可能性がある会社は36協定の様式も変わり、災害時における復旧及び復興の事業を含む場合は、様式第9号の3の2(一般条項)または様式第9号の3の3(特別条項)を使います。

違反したらどうなるか

罰則は6月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金です(労働基準法119条1号)。懲役と禁錮は令和4年法律第67号による改正で拘禁刑に一本化され、2025年6月1日に施行されました。そのため条文の表記も拘禁刑になっています。

どの条文の違反になるかは、超えた数字によって変わります。単月100時間未満と複数月平均80時間以内を実際に超えさせた場合は36条6項違反です。年720時間を超えた場合や、月45時間超が年6回を超えた場合は、36協定に定めることのできる時間の枠(36条5項)を外れるので、協定による免罰の効果が及ばず、法定労働時間そのものの違反(32条)として扱われます。罰則はどちらも119条1号で同じです。

罰せられる「使用者」は事業主に限りません。労働者に関する事項について事業主のために行為するすべての者を指す(労働基準法10条)ので、残業を指示した現場代理人や所長も対象になりえます。さらに121条の両罰規定があり、従業者が違反した場合は事業主にも罰金が科されます。ただし、事業主が違反の防止に必要な措置をしていた場合は除かれます。

順序としては、上限の数字より前に36協定そのものを見たほうがよいです。届出のないまま法定労働時間を1分でも超えさせれば、それは32条違反で罰則は同じです。有効期間が切れたまま更新していない、事業場ごとに出していない、というほうが実務ではよく起きます。

入口は監督署の是正勧告

いきなり書類送検されるわけではなく、通常は労働基準監督署の臨検監督と是正勧告から始まります。厚生労働省が2025年7月30日に公表した令和6年度の監督指導結果では、監督指導した26,512事業場のうち11,230事業場(42.4%)で違法な時間外労働が確認されました。全業種を合わせた数字であり、もともと時間外・休日労働が月80時間を超えていると疑われる事業場などを選んで入った結果です。それでも、指導を受ける確率は低いものではありません。

罰金より重いのは仕事が止まること

  • 書類送検や公表に至った場合、発注機関の指名停止基準によっては公共工事の指名停止の対象になります
  • 元請の下請審査や取引先の与信で、労務管理の状態を確認されることがあります
  • 求人票には時間外労働の有無と月平均時間を書く欄があります。募集をかけるたびに、その数字が応募者の目に触れます

打刻がなければ何も守れない

上限規制は時間で判定されます。時間を測っていない会社は、守れているかどうかを自分でも言えません。労働安全衛生法66条の8の3は労働時間の状況の把握を事業者の義務とし、その方法は労働安全衛生規則52条の7の3で、タイムカードによる記録、パソコン等の電子計算機の使用時間の記録などの客観的な方法と定められています。把握した記録は3年間の保存が必要です(同条2項)。労働時間の規定が適用されない管理監督者も、この把握義務の対象に入ります。

建設業でずれやすいのは、どこからを労働時間として数えるかです。中央建設業審議会の「工期に関する基準」は、規制の対象となる労働時間には、現場での直接作業や現場監督に要する時間だけでなく、書類の作成に係る時間や、使用者の指揮命令下で技能労働者や建設機械のオペレーターが営業所等と建設現場との間を移動するのに要する時間も含まれる、としています。自社の資材置場に集合してから現場へ向かう時間を数えていないなら、実際の労働時間は帳簿より長いことになります。

同じ基準は、使用者の指揮命令下で運送事業者が物品納入に要する時間や、オペレーターが建設機械を現場に搬入する時間についても、時間外労働規制の遵守を前提として工期の設定で考慮するよう求めています。こちらは労働時間の数え方ではなく、工期の組み方の話です。

賃金台帳を含む労働関係の重要書類は、5年間の保存義務があります(労働基準法109条。ただし当分の間は3年、附則143条1項)。是正勧告を受けたときに過去を再現できるかどうかは、この記録の有無で決まります。

現場の回し方をどう変えるか

工期は断ってよい

建設業法19条の5は、通常必要と認められる期間に比べて著しく短い期間を工期とする請負契約を結ぶことを禁じています。禁じられているのは注文者だけではありません。2024年の改正(令和6年法律第49号)で2項が加わり、建設業者が自らの発意でそうした契約を結ぶことも禁止されました。元請が下請に短い工期を押しつける形も、ここに入ります。

何が著しく短いかを測る物差しが、中央建設業審議会の「工期に関する基準」です。この基準は上限規制の適用を踏まえて2024年3月27日に改定され、次の内容が入りました。

  • 発注者は、受注者やその下請負人が時間外労働規制を遵守して行う工期の設定に協力する
  • 猛暑日など自然要因による不稼働を考慮して工期を設定する
  • 十分な工期の確保や交代勤務制の実施等に必要となる経費を、請負代金の額に適正に反映する
  • 受注者は、契約締結前や変更契約が必要となる際に、時間外労働規制を遵守した適正な工期による見積りを作成して発注者に提出する

使い方は単純で、見積書に工期の根拠を書き添えます。所要日数の内訳に、雨天と猛暑の不稼働見込み日数、4週8休を前提とした稼働日数を並べます。口頭で「その工期では無理です」と言うのと、根拠を紙で出すのとでは、そのあとの交渉のかたちが変わります。同じ2024年の改正では労務費の基準(標準労務費)の仕組みも加わり、著しく低い労務費での見積依頼が禁止されました。

年6回は予算として先に配る

月45時間を超えられるのは年6回だけです。使ってから調整できる性質のものではないので、年度の初めに配ってしまうほうが安全です。

  1. 年度頭に、繁忙が読める月を6つ決めて社内で共有する
  2. 月次で、各人の年720時間の残りと45時間超の残回数を並べて見る
  3. 45時間を超えた月の翌月は、直前5か月までの平均を先に計算してから残業を出す

残業を減らすのではなく残業になっている作業を減らす

現場の作業時間はそう簡単には縮まりません。先に削れるのは、現場が終わってからの時間のほうです。写真の整理、日報、見積、完了報告、請求。これらを事務所に戻ってからやっている限り、拘束時間は現場作業と事務の足し算のままになります。

厚生労働省の毎月勤労統計調査をもとに国土交通省が整理した資料では、令和6年度の建設業の年間実労働時間は1,987時間で、全産業の1,939時間より48時間長く、年間出勤日数も10日多くなっています(パートタイムを除く一般労働者)。長い48時間がどこから出ているかまでは、この統計だけでは分かりません。ただ、出勤日数に10日の差がある以上、1日の残業を削るだけでは届かない、とは読めます。

月60時間を超える時間外労働の割増賃金率は50%以上です(労働基準法37条1項ただし書)。中小企業への猶予は2023年4月1日に終わっています。60時間を超えた時点から人件費の単価が上がるので、上限規制は労務原価にも直接効いてきます。

人を一人親方にして逃げない

上限規制を避けるために雇用を請負に切り替えるやり方は、国土交通省が「建設業の一人親方問題に関する検討会」で正面から扱っている論点です。契約書の表題が請負でも、実態が指揮命令下の労働であれば労働者と判断されます。社会保険の加入状況や建設キャリアアップシステムの登録内容とも突き合わされるので、隠し通せる種類のものではありません。

今週やること

  1. 36協定を引き出して、有効期間と特別条項の中身を読む
  2. 災害時における復旧及び復興の事業を扱う可能性があるなら、様式が合っているか確認する
  3. 打刻が客観的な方法になっているか。紙の日報の自己申告だけになっていないか
  4. 使用者の指揮命令下での営業所と現場の間の移動時間を、労働時間に入れているか
  5. 直近5か月の時間外労働と休日労働の合計の平均を、人ごとに1回計算してみる
  6. 次の見積から、工期の根拠を書く欄をつくる

ここまでが制度の話です。最後に道具の話を少しだけ。ソクオヤカタは建設業・設備業向けのSaaSで、現場写真と一言のメモからAIが見積・日報・完了報告の下書きをつくり、担当者が確認して出します。打刻はそのまま労務原価につながり、案件ごとの粗利まで見えます。画面は日本語のほか、ベトナム語・インドネシア語・英語・中国語・ミャンマー語に対応しています。料金はLite 29,800円、Standard 49,800円、Pro 79,800円(月・税込)です。

上限規制で効いてくるのは、事務所に戻ってからの時間と、そもそも測れていない時間の2つです。この2つを別々の仕組みで扱っている限り、月末に集計してから慌てることになります。同じ場所で扱えるかどうかを、道具を選ぶときの基準にしてください。

よくある質問

建設業の時間外労働の上限は月何時間ですか
原則は月45時間・年360時間です。36協定に特別条項を付けた場合でも、年720時間、休日労働を含めて単月100時間未満、休日労働を含めて2〜6か月平均80時間以内という上限があり、月45時間を超えられるのは1年に6か月までです。1年単位の変形労働時間制で対象期間を3か月を超えて定めている場合は、原則が月42時間・年320時間になります。
休日に働いた時間も上限に含めて数えますか
上限によって数え方が2種類あります。年720時間は時間外労働だけで数えるので、法定休日に働かせた時間は入りません。一方で単月100時間未満と2〜6か月平均80時間以内は、休日労働を足して数えます。日曜に出た分は年の合計には響かないのに月の判定では効くので、混ぜると年に余裕があるのに月で落ちます。
2か月から6か月平均80時間はどう計算しますか
ある月の判定は、その月単独ではなく、直前1か月・2か月・3か月・4か月・5か月を足したそれぞれの期間の月平均で見ます(労働基準法36条6項3号)。この5通りすべてが80時間以内でなければなりません。休日労働も足して数えるため、90時間の月を作った翌月は、意識して落とさないと自動的に違反へ向かいます。
災害の復旧工事は上限規制の対象外ですか
対象外にはなりません。労働基準法139条の特例で外れるのは、単月100時間未満と2〜6か月平均80時間以内の2つだけです。年720時間、月45時間を超えられるのは年6回まで、原則の月45時間・年360時間はそのまま適用されます。該当するのは災害の復旧・復興の工事そのもので、工期が遅れている通常の工事は入りません。
上限を超えるとどんな罰則がありますか
6月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金です(労働基準法119条1号)。罰せられる使用者は事業主に限らず、労働者に関する事項について事業主のために行為するすべての者を指すので、残業を指示した現場代理人や所長も対象になりえます。さらに両罰規定があり、従業者が違反した場合は事業主にも罰金が科されます。ただし、いきなり書類送検されるわけではなく、通常は労働基準監督署の臨検監督と是正勧告から始まります。
打刻は紙の日報の自己申告でもいいですか
客観的な方法が求められます。労働安全衛生法66条の8の3は労働時間の状況の把握を事業者の義務とし、労働安全衛生規則52条の7の3はその方法を、タイムカードによる記録やパソコン等の電子計算機の使用時間の記録などの客観的な方法と定めています。把握した記録は3年間の保存が必要です。労働時間の規定が適用されない管理監督者も、この把握義務の対象に入ります。

出典: 労働基準法(e-Gov法令検索)10条・32条・36条・37条・109条・119条・121条・139条・附則143条

出典: 労働安全衛生法(e-Gov法令検索)66条の8の3

出典: 労働安全衛生規則(e-Gov法令検索)52条の7の3

出典: 建設業法(e-Gov法令検索)19条の5

出典: 厚生労働省 建設業・ドライバー・医師等の時間外労働の上限規制

出典: 厚生労働省 長時間労働が疑われる事業場に対する令和6年度の監督指導結果を公表します(令和7年7月30日)

出典: 東京労働局 時間外・休日労働に関する協定届(36協定届)の様式一覧

出典: 国土交通省 工期に関する基準(令和2年7月20日作成・令和6年3月27日改定)

出典: 国土交通省 建設業法・入契法改正(令和6年法律第49号)について

出典: 国土交通省 最近の建設産業行政について(令和7年9月・厚生労働省サイト掲載)産業別年間実労働時間・年間出勤日数

出典: 国土交通省 建設業の一人親方問題に関する検討会

出典: 法務省 拘禁刑下の矯正処遇等について(令和7年6月1日施行)

SOKUOYAKATA編集部

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