先に結論 AIに渡せるのは下書きまで
建設業でAIをどこまで使うかは、好みや会社の方針だけで決まる話ではない。建設業法と労働安全衛生法には、この判断は人がやれ、この書面は人が署名しろ、と名指しで書かれている場所がある。そこがそのまま線になる。
| 仕事 | AIに任せられるか | 根拠 |
|---|---|---|
| 現場写真の整理と仕分け | 任せてよい | 法令上の要求なし |
| 日報の下書き | 任せてよい | 記録の作成自体に資格要件なし |
| 完了報告の文章化 | 任せてよい | 内容の確認を人が行う前提 |
| 作業指示の翻訳 | 任せてよい | 内容の確認を人が行う前提 |
| 見積の内訳のたたき台 | 下書きまで | 金額の妥当性の判断は人 建設業法20条2項 |
| 請負金額の決定 | 任せられない | 不当に低い請負代金の禁止 建設業法19条の3 |
| 契約書面の記載と記名押印 | 任せられない | 建設業法19条1項 |
| 現場の技術上の管理 | 任せられない | 主任技術者 監理技術者の設置と職務 建設業法26条 26条の4 |
| 危険箇所の判断と作業の可否 | 任せられない | 作業主任者 元方事業者の義務 安衛法14条 29条 |
| 有資格者でなければできない作業の割り当て | 任せられない | 就業制限 安衛法61条 |
なぜここに線が引かれるのか
見積と契約は人が署名する書面として法律に書かれている
建設業法19条1項は、請負契約の締結に際して16の事項を書面に記載し、署名または記名押印をして相互に交付しなければならないと定めている。工事内容、請負代金の額、着手と完成の時期、価格等の変動に基づく請負代金の変更の定め、検査と引渡しの時期、紛争の解決方法などが並ぶ。相手方の承諾を得れば、政令で定めるところにより電子的な方法に代えることもできる(19条3項)。AIはこの書面の下書きを作れる。だが記載の正しさに責任を負うのは、記名押印した人、電子契約ならその措置を講じた人になる。
2025年12月12日、改正建設業法が完全施行された。見積の側も変わっている。20条1項は、工種ごとの材料費・労務費などの内訳と、工程ごとの作業と準備に必要な日数を書いた見積書(材料費等記載見積書)を作るよう努めることを求める。2項は、そこに書く材料費等の額が、通常必要と認められる額を著しく下回るものであってはならないと定める。4項では、注文者から請求があったときは、請負契約が成立するまでにこの見積書を交付しなければならないとされた。19条の3第2項では、受注者の側も、省令で定める正当な理由がある場合を除き、通常必要と認められる原価に満たない金額で契約してはならないことが明記された。
注文者の側にも縛りがある。20条6項は、交付を受けた見積書の材料費等の額について、通常必要と認められる額を著しく下回ることとなるような変更を求めてはならないとしており、これに違反して契約した発注者には、許可行政庁が必要な勧告をすることができる(同条7項)。下請に立つ側は、値引きを求められた記録を残しておくと後の話が早い。
この通常必要と認められる額の物差しになるのが、中央建設業審議会が2025年12月2日に決定・勧告した労務費に関する基準だ。建設業法34条2項に基づくもので、適正な労務費を、公共工事設計労務単価に、施工条件や作業内容に照らした歩掛を掛けた「単位施工量当たり労務費」として整理している。標準的な作業内容や施工条件が特定できる職種分野については、国土交通省が職種分野別・都道府県別に具体的な数値(基準値)を定める。基準自体が、基準値は個別の請負契約にそのまま適用できる値ではなく、具体の作業内容や施工条件を踏まえて補正して労務費を算出すべきものだと書いている。
AIが過去の見積から金額を引いてくることはできる。しかしその金額が基準に照らして低すぎないか、この現場の条件で歩掛をどう補正すべきかは、補正の余地を含んだ判断になる。ここは自動化の対象ではなく、人が引き受ける対象だ。
主要な資材の供給の著しい減少や資材価格の高騰など、工期や請負代金の額に影響を及ぼす事象が起きるおそれがあると認めるときは、建設業法20条の2第2項により、契約を締結するまでに注文者へ通知しなければならない。通知しておけば、実際に起きたときに工期や工事内容や代金の変更協議を申し出られる(同条3項)。AIに見積を作らせるなら、この通知を出すかどうかの確認を工程に組み込む。
見積期間はAIで速くなっても短縮できない
建設業法施行令5条の9は、注文者が建設業者に見積をさせるために設けなければならない期間を定めている。
| 工事一件の予定価格 | 設けるべき見積期間 |
|---|---|
| 500万円未満 | 1日以上 |
| 500万円以上 5,000万円未満 | 10日以上 |
| 5,000万円以上 | 15日以上 |
やむを得ない事情があるときは、下の2区分を5日以内に限り短縮できる。ここが効いてくるのは、自社が下請へ見積を頼む側になったときだ。AIで見積作成が速くなっても、下請に渡す期間を法定日数より短くしてよいことにはならない。速くなった分は、自社の検討と根拠の確認に使う。
現場の技術上の管理は資格を持った人の職務
建設業法26条は、請け負った工事を施工するときは主任技術者を置くこと、発注者から直接工事を請け負った特定建設業者は、下請契約の請負代金の総額が5,000万円(建築工事業は8,000万円)以上になる場合に監理技術者を置くことを求める。工事現場における施工の技術上の管理をつかさどるのがこの人で、その職務の中身は26条の4第1項に書かれている。さらに26条3項で、公共性のある施設や多数の者が利用する施設に関する重要な工事については、工事現場ごとに専任でなければならないとしている。専任が必要になるのは、施行令27条により請負代金4,500万円以上(建築一式工事は9,000万円以上)の工事だ。
2024年12月13日施行の改正で、情報通信技術を使う場合の例外が入った。施行令28条により請負代金が1億円未満(建築一式工事は2億円未満)であること、現場間の移動時間や連絡方法が省令の要件に適合すること、現場の状況確認などの職務を情報通信技術で行うための措置が講じられていることが条件で、対象にできる現場は2つまでとされている(施行令30条)。
緩和されたのは、どこから見るかであって、誰が職務を負うかではない。カメラとAIが現場を映していても、施工の技術上の管理をつかさどるのは選任された技術者のままだ。
安全の判断は最初から対象外になっている
労働安全衛生法の書き方は一貫している。14条は、政令で定める作業について、免許を受けた者か技能講習を修了した者から作業主任者を選任し、その者に労働者の指揮をさせなければならないと定める。61条は、クレーンの運転など政令で定める業務について、資格を持つ者でなければ就かせてはならないとする。29条は、元方事業者は関係請負人が法令に違反しないよう必要な指導を行い、違反していると認めるときは是正のため必要な指示を行わなければならないと定める。60条は、新たに職長になった者への安全衛生教育を事業者に義務づけている。
どれも、人を選任してその人に指揮や判断をさせる形で書かれている。AIが写真を見て危ないところを拾い上げるのは、選任された人の目を助ける道具として使える。だが、AIが安全だと言ったから作業を進めた、という説明は法律の側に受け皿がない。
写真と一言のメモから実際に作れるもの
- 現場写真を日付と案件と工程に仕分ける
- その日の作業と数量から日報の下書きを作る
- 着工前後の写真を並べて完了報告の文章にする
- 作業指示を現場の言語に置き換える
- 過去の類似工事から見積の内訳のたたき台を出す
- 工事内容から請求書の項目の下書きを作る
共通しているのは、どれも人が直せる形で出てくることだ。数字が根拠の写真やメモにひもづいていて、どこが違うかを指摘できる。逆に、根拠が見えないまま結論だけ出てくるものは、下書きではなく判断の肩代わりになっている。使う前にそこを見分ける。
AIに入れてはいけないもの
個人情報保護委員会は2023年6月2日に、生成AIサービスの利用に関する注意喚起を出している。個人情報取扱事業者が、あらかじめ本人の同意を得ずに個人データを含むプロンプトを入力し、そのデータが応答結果の出力以外の目的で取り扱われる場合、個人情報保護法の規定に違反することとなる可能性がある、という内容だ。この注意喚起は撤回されていない。
- 現場写真に写り込んだ近隣住民の顔
- 駐車車両のナンバープレート
- 表札 郵便受け 集合玄関の名札
- 発注者から預かった図面や仕様書のうち 外部への提供が契約で制限されているもの
- 従業員の氏名とひもづいた健康情報や在留に関する情報
やり方は二つしかない。入れる前に消すか、入力したデータが学習に使われない条件で契約しているサービスを使うか。自社が使っているサービスがどちらなのかは、利用規約と管理画面の設定の両方で確認しておく。無料版と法人契約版で扱いが違うサービスは珍しくない。
外に出す前の確認をどう仕組みにするか
| 段階 | 確認すること | 誰が |
|---|---|---|
| AIに渡す前 | 写真とメモに個人情報が写り込んでいないか | 入力した人 |
| 下書きが出たあと | 数字の出どころが写真かメモにたどれるか | 作成担当 |
| 外に出す前 | 金額 工期 安全に関わる記述を法定の要件と突き合わせる | 技術者または責任者 |
| 出したあと | 下書きのどこを直したかを残す | 作成担当 |
抜けやすいのは4行目だ。どこを直したかが残っていないと、同じ間違いが何度でも出てくる。直した箇所の記録は、AIの精度の話というより、自社の仕事のどこにAIが届いていないかの地図になる。三か月ためて見ると、任せる範囲を広げてよいところと、当分人が見るべきところが分かれてくる。
間違いが出たとき責任は誰に残るか
人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律(令和7年法律第53号)は2025年に施行された。7条に活用事業者の責務が置かれているが、民間事業者に対する罰則や禁止規定は置かれていない。総務省と経済産業省のAI事業者ガイドラインは2026年3月31日に第1.2版が公表され、AIエージェントやフィジカルAIの定義が加わったが、これも法的拘束力のある規制ではない。
つまり、AIを使ったことを理由に軽くなる責任はない。建設業法に基づく勧告や監督処分は建設業者に向く。安衛法の義務は事業者と選任された者に向く。適格請求書の記載事項が欠けていて仕入税額控除ができなくても、困るのは書類を出した側と受け取った側だ。AIは責任の受け皿にはならない。
明日から引ける線
- 金額 工期 安全に関わる結論は 人が根拠を確認してから外に出す
- AIが出した数字は 根拠になった写真かメモと必ず一緒に見る
- 入力する前に 写真から人と車と表札を消す
- 下書きを直した箇所を残して 月に一度まとめて見る
ソクオヤカタは建設業・設備業向けに、この線引きを前提に組んでいる。現場写真と一言のメモから見積や日報や完了報告の下書きをAIが作り、外に出す前に担当者が確認する。打刻はそのまま労務原価と案件原価につながり、粗利が見える形になる。画面は日本語・ベトナム語・インドネシア語・英語・中国語・ミャンマー語の6言語で、外国人技能者のいる現場でも同じ記録が回る。
任せるかどうかで迷ったら、間違えたときに誰が謝りに行くかを考えるとよい。謝りに行く人が判断を持つ。それが、いまの法律が引いている線とだいたい重なる。
よくある質問
- 見積書をAIに作らせてもいいですか
- 内訳のたたき台までなら任せられます。ただし建設業法20条2項は、見積書に書く材料費等の額が通常必要と認められる額を著しく下回るものであってはならないと定めており、その金額が妥当かどうかの判断は人が持ちます。AIが過去の類似工事から引いてきた数字も、この現場の作業内容と施工条件で歩掛をどう補正するかを確認してから外に出します。
- AIで見積が速くなれば下請に渡す見積期間は短くできますか
- 短くできません。建設業法施行令5条の9は、注文者が建設業者に見積をさせるために設けなければならない期間を、工事一件の予定価格が500万円未満なら1日以上、500万円以上5,000万円未満なら10日以上、5,000万円以上なら15日以上と定めています。やむを得ない事情があるときに下の2区分を5日以内に限り短縮できるだけで、自社の作成が速くなったことは短縮の理由になりません。速くなった分は、自社の検討と根拠の確認に使います。
- 契約書面の作成はAIに任せられますか
- 下書きまでです。建設業法19条1項は、請負契約の締結に際して工事内容や請負代金の額など16の事項を書面に記載し、署名または記名押印をして相互に交付しなければならないと定めています。相手方の承諾を得れば政令で定めるところにより電子的な方法に代えられますが、記載の正しさに責任を負うのは記名押印した人、電子契約ならその措置を講じた人です。
- 現場にカメラとAIを入れれば技術者の専任は要らなくなりますか
- 要らなくはなりません。2024年12月13日施行の改正で、情報通信技術を使う場合に専任の技術者が2つまでの現場を受け持てる例外が入りましたが、請負代金が1億円未満(建築一式工事は2億円未満)であることや、現場間の移動時間や連絡方法が省令の要件に適合することなどが条件です。緩和されたのはどこから見るかであって、誰が職務を負うかではありません。施工の技術上の管理をつかさどるのは、選任された主任技術者または監理技術者のままです。
- AIが安全だと判断したら作業を進めてよいですか
- 進めてよい根拠にはなりません。労働安全衛生法14条は政令で定める作業について免許を受けた者か技能講習を修了した者から作業主任者を選任してその者に労働者の指揮をさせること、61条は資格を持つ者でなければ政令で定める業務に就かせないことを定めており、どれも人を選任してその人に判断させる形で書かれています。AIが写真から危ない箇所を拾い上げるのは、選任された人の目を助ける道具としては使えます。ただしAIが安全だと言ったから作業を進めた、という説明には法律の側に受け皿がありません。
- 現場写真はそのままAIに入れてよいですか
- 写り込みを消してからにします。個人情報保護委員会は2023年6月2日に、個人情報取扱事業者があらかじめ本人の同意を得ずに個人データを含むプロンプトを入力し、そのデータが応答結果の出力以外の目的で取り扱われる場合は個人情報保護法の規定に違反することとなる可能性がある、という注意喚起を出しています。近隣住民の顔、駐車車両のナンバープレート、表札や郵便受けの名札は、入れる前に消すか、入力したデータが学習に使われない条件で契約しているサービスを使います。無料版と法人契約版で扱いが違うサービスは珍しくないので、利用規約と管理画面の設定の両方で確認しておきます。
出典: 建設業法(昭和24年法律第100号)e-Gov法令検索
出典: 建設業法施行令(昭和31年政令第273号)e-Gov法令検索
出典: 国土交通省 報道発表 持続可能な建設業の実現のため、建設業法等改正法が完全施行されます
出典: 国土交通省 建設業法・入契法改正(令和6年法律第49号)について
出典: 中央建設業審議会 労務費に関する基準(令和7年12月2日決定)
出典: 労働安全衛生法(昭和47年法律第57号)e-Gov法令検索
出典: 個人情報保護委員会 生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について(令和5年6月2日)
出典: 人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律(令和7年法律第53号)e-Gov法令検索
出典: 総務省・経済産業省 AI事業者ガイドライン(第1.2版 令和8年3月31日)
出典: 国税庁 インボイス制度の概要
SOKUOYAKATA編集部



