原価・資金最終更新 10

工事の案件別原価の出し方 材料費・労務費・外注費と粗利

工事ごとの粗利が決算まで分からない、という状態を抜けるために、4つの費目の分け方と日々の積み上げ方を順に整理する。

外注費22万円と労務原価8万円を足した案件原価30万円を、売上48万円から引いて粗利18万円を出す流れの図

先に結論を書く。案件ごとの原価は、材料費・労務費・外注費・経費という4つの箱に分けて、案件番号をつけて日々ためていけば出る。この4つは自社で決めた分類ではなく、建設業法施行規則の様式に対応する国土交通大臣告示で定義されている。決算書と同じ分類で日々ためるので、期末に組み替える手間が要らない。

粗利は「完成工事高 − 完成工事原価」で出る。案件別に出したければ、この右辺を案件番号で切れる形にしておけばよい。逆に言えば、案件番号で切れない費用が1つでも残っていると、その分だけ粗利は嘘になる。

4つの費目の境目

昭和57年建設省告示第1660号は、完成工事原価の各費目を次のように定めている。実務で迷うのはほぼ労務費と外注費の間なので、原文の言い回しをそのまま見ておく価値がある。

費目告示による定義
材料費工事のために直接購入した素材、半製品、製品、材料貯蔵品勘定等から振り替えられた材料費(仮設材料の損耗額等を含む)
労務費工事に従事した直接雇用の作業員に対する賃金、給料及び手当等
(うち労務外注費)労務費のうち、工種・工程別等の工事の完成を約する契約でその大部分が労務費であるものに基づく支払額
外注費工種・工程別等の工事について素材、半製品、製品等を作業とともに提供し、これを完成することを約する契約に基づく支払額。ただし労務費に含めたものを除く
経費材料費、労務費及び外注費以外の費用。動力用水光熱費、機械等経費、設計費、労務管理費、租税公課、地代家賃、保険料、従業員給料手当、退職金、法定福利費、福利厚生費など
(うち人件費)経費のうち従業員給料手当、退職金、法定福利費及び福利厚生費

読み解くと、境目は「誰が雇っているか」と「材料を誰が持ってくるか」の2つで決まる。

  1. 自社が直接雇っている作業員か。そうなら労務費。
  2. 他社や一人親方に頼んだか。頼んだ相手が材料も持ち込んで仕上げるなら外注費。
  3. 体だけ来てもらい、材料は自社が用意したなら、その支払いは労務外注費。告示は、その大部分が労務費である請負契約は労務費に含めて記載できるとしていて、労務費の内数として表示する。
  4. 現場を回す監督や現場代理人の給料は、作業員の賃金ではないので経費の従業員給料手当に入る。
同じ「協力会社に20万円払った」でも、材工共なら外注費、手間だけなら労務外注費になる。ここが混ざると、自社の労務比率も外注比率も年ごとに動いてしまい、来年の見積の材料にならない。注文書の段階で材工共か手間だけかを書き分けておくのがいちばん早い。

労務費は賃金だけでは足りない

案件別原価がいちばん狂うのがここになる。賃金だけを労務費として案件に配ると、社会保険の事業主負担がまるごと抜け落ちる。抜けた分は経費に沈むので、案件別の数字を見ているかぎり気づけない。

公的な資料も、賃金と事業主負担を明確に切り分けている。国土交通省は公共工事設計労務単価について、事業主が負担すべき必要経費は含まれていないと明記している。中央建設業審議会が2025年12月2日に決定した「労務費に関する基準」も、ここでいう労務費は技能者の賃金相当分(法定福利費の個人負担分を含む)のみを指す概念であり、法定福利費の事業主負担分、安全衛生経費、建設業退職金共済の掛金は含まれないと書いている。

では事業主負担はいくらか。2026年度(令和8年度)の率を並べる。

保険保険料率事業主負担分
健康保険(協会けんぽ全国平均)9.90%4.95%
厚生年金保険18.300%9.150%
子ども・子育て拠出金0.36%0.36%(全額事業主)
雇用保険(建設の事業)16.5/1,00010.5/1,000(1.05%)
労災保険(建築事業)9.5/1,0009.5/1,000(0.95%・全額事業主)
単純合計16.46%
40歳から64歳の従業員には介護保険料率1.62%(労使折半)が上乗せされる。健康保険と介護保険の率は3月分(4月納付分)から改定される。2026年4月分からは子ども・子育て支援金率0.23%も加わるが、これも健康保険料と同じく労使折半なので、事業主負担は0.115%になる。また健康保険と厚生年金は標準報酬月額、雇用保険と労災保険は賃金総額が計算の基礎なので、厳密には別々に計算する。ここでの合計はあくまで見当をつけるための数字として扱う。

労災保険率は工事の種類で大きく変わる。2026年度は2025年度と同率で据え置かれている。

事業の種類労災保険率
水力発電施設、ずい道等新設事業34/1,000
道路新設事業11/1,000
舗装工事業9/1,000
鉄道又は軌道新設事業9/1,000
建築事業(既設建築物設備工事業を除く)9.5/1,000
既設建築物設備工事業12/1,000
機械装置の組立て又は据付けの事業6/1,000
その他の建設事業15/1,000

実務では、賃金と事業主負担をまとめて「この職人の1時間あたり原価」にしてから案件に配ると扱いやすい。決算書の分類では事業主負担の法定福利費は経費(うち人件費)に入るが、案件別の管理では労務の時間単価に含めておかないと、現場ごとの粗利が実態より甘く出る。決算のための分類と、判断のための配賦は、別のものとして持っておいてよい。

自社の労務比率が妥当かを測る物差し

手元の案件で労務費の比率が高すぎるのか低すぎるのか、判断材料が何もないという場合、労災保険の労務費率が一つの目安になる。これは請負による建設事業で賃金総額を正確に把握することが困難なときに、保険料の算定に使う率として厚生労働省が定めているものだ。

事業の種類請負金額に乗ずる率
水力発電施設、ずい道等新設事業19%
道路新設事業19%
舗装工事業17%
鉄道又は軌道新設事業19%
建築事業(既設建築物設備工事業を除く)23%
既設建築物設備工事業23%
機械装置の組立て又は据付けの事業(組立て又は取付けに関するもの)38%
機械装置の組立て又は据付けの事業(その他のもの)21%
その他の建設事業23%
これは保険料を計算するための率であって、原価管理の基準値ではない。自社の実績がこの率から大きく離れているとき、外注に振っているのか、手間を安く見ているのか、どちらなのかを考えるきっかけとして使う。

打刻がないと労務費は案件に配れない

材料費は納品書、外注費は注文書と請求書という証跡がある。労務費だけは、誰がどの現場に何時間いたかという記録を自分で作らないと存在しない。ここが案件別原価のいちばんの壁になる。

必要なのは日報の文章ではなく、日付と現場と時間の3つが揃った記録だ。1人が1日で2現場を回るなら、その日を2行に割る。ここを月末にまとめて思い出しながら書くと、記憶のいい人ほど平均的な数字を書いてしまい、赤字の現場が平らにならされる。

迷いやすい時間の扱いは、社内で先に1つ決めて文書にしておく。

  • 現場間の移動時間をどちらの現場に付けるか
  • 資材置場での積み込みや段取りの時間をどう扱うか
  • 手直しの時間は元の案件に付けるか、別に立てるか
  • 現場に出ない事務や見積の時間をどこに落とすか

手直しは元の案件に付けるほうがよい。別扱いにすると、その案件が本当はいくらで終わったのかが分からなくなり、次に同じ見積を出してしまう。

外注費は請求書ではなく出来高で付ける

外注の請求書は月末や工事完了後にまとめて届く。届いた月に全額を原価として落とすと、原価が請求書の届いたタイミングで動く。案件別に見るなら、注文書の工種単位で出来高を見て、進んだ分だけ原価に積むほうが実態に近い。

もう一つ、期をまたぐ工事では未成工事支出金の扱いが効いてくる。完成していない工事に出た費用はいったん資産として持ち、完成した期に完成工事原価へ振り替わる。これを知らないと、完成月だけ原価が跳ね上がって赤字に見え、その前の月はやたら儲かって見える。月次で経営を見るなら、完成基準の会計上の数字とは別に、案件ごとの累計原価を並べて見る必要がある。

粗利が見えるまでの流れ

  1. 見積の時点で4費目に分けた予算を置く。労務費は人日と単価で組み、事業主負担は別行にする。
  2. 受注したら案件番号を1つ発番する。以後、この番号のない支出を作らない。
  3. 打刻を労務費に、注文書と出来高を外注費に、納品書を材料費に、残りを経費に落とす。
  4. 月末に予算と実績を4費目で並べる。差が出た費目だけを見に行く。
  5. 完成した月に、完成工事高から完成工事原価を引いて完成工事総利益を確定する。

この5つのうち、多くの会社で抜けているのは2番目だ。案件番号が現場の呼び名(◯◯様邸、A工場)で流通していると、同じ現場が複数の呼び方で帳簿に入り、集計できない。番号を1つに決めて、注文書にも請求書にも打刻にも同じ番号を載せる。それだけで集計は成立する。

2025年12月から見積書の内訳は法律の話になった

第三次・担い手3法による改正建設業法は2025年12月12日に全面施行された。原価を掴む作業は、そのまま法令が求める見積書の中身に直結するようになっている。

  • 請負契約の締結に際して、材料費や労務費等を記載した材料費等記載見積書の作成が努力義務になった(建設業法第20条)
  • 中央建設業審議会が労務費に関する基準を作成・勧告し(同法第34条)、これを著しく下回る見積りや契約の締結は禁止された(同法第20条)
  • 原価割れ契約の禁止が受注者側にも適用された(同法第19条の3)
  • 法定福利費の事業主負担分、安全衛生経費、建退共掛金は、適正な施工に不可欠な経費として見積書に内訳明示する対象になった

労務費に関する基準は、適正な労務費を「適切な職種の公共工事設計労務単価(円/人日・8時間)× 施工条件や作業内容に照らして適正な歩掛(人日/単位施工量)」で求めた単位施工量あたりの労務費に、必要な数量を乗じた額としている。労務単価は工事の施工場所が属する都道府県の値を使い、公共工事設計労務単価を下回る水準を設定しないこととされている。

その公共工事設計労務単価は、2026年3月から適用される分で全国全職種の単純平均が前年度比4.5%の引き上げとなり、加重平均値は25,834円になった。2013年度に法定福利費相当額を反映して以降、14年連続の上昇になる。人日と単価で見積を組んでいれば、この改定はそのまま自社の労務費の見直しに使える。

最初の1か月でやること

  • 会計ソフトに材料費・労務費(うち労務外注費)・外注費・経費(うち人件費)の科目を作る
  • 進行中の案件に番号を振り、注文書と請求書に番号を書く運用に変える
  • 出退勤の記録を現場単位で取る。1日1行ではなく現場ごとに1行にする
  • 職人1人あたりの時間単価に事業主負担を上乗せした数字を作る
  • 移動・段取り・手直しの時間の扱いを決めて紙に書く

ここまでで、案件別の粗利は出る。出たあとにやることは、赤字の案件を探すことではない。予算と実績が離れた費目を1つ選んで、なぜ離れたのかを現場に聞く。それを毎月1件ずつ続けると、来年の見積が変わる。

打刻と写真とメモが最初から案件番号に紐づいていれば、この集計は事務の作業ではなく、記録の副産物になる。ソクオヤカタは、現場の打刻をそのまま労務原価に、労務原価を案件原価と粗利に、そして経営レポートまでつなげる形で作っている。見積や日報、完了報告の下書きをAIが作り、担当者が確認して出すところまでを含めて、案件番号を1本通すことを狙っている。

よくある質問

労務費と外注費の違いは何ですか
自社が直接雇っている作業員に払う賃金や手当が労務費です。他社や一人親方に頼み、相手が材料も持ち込んで仕上げるなら外注費になります。体だけ来てもらい材料は自社が用意した場合は労務外注費で、告示上は労務費の内数として表示します。同じ20万円の支払いでも、材工共か手間だけかで入る箱が変わります。
現場監督の給料は労務費に入りますか
入りません。昭和57年建設省告示第1660号がいう労務費は、工事に従事した直接雇用の作業員に対する賃金、給料及び手当等を指します。現場を回す監督や現場代理人の給料は作業員の賃金ではないため、経費の従業員給料手当に入ります。
法定福利費の事業主負担は何パーセントですか
2026年度の率を単純に合計すると、事業主負担は16.46%になります。内訳は健康保険(協会けんぽ全国平均)4.95%、厚生年金9.150%、子ども・子育て拠出金0.36%、雇用保険(建設の事業)1.05%、労災保険(建築事業)0.95%です。40歳から64歳の従業員には介護保険料率1.62%の労使折半分が上乗せされます。健康保険と厚生年金は標準報酬月額、雇用保険と労災保険は賃金総額が計算の基礎なので、厳密には別々に計算します。
手直しの時間はどの案件につけますか
元の案件に付けるほうがよいです。別に立てると、その案件が本当はいくらで終わったのかが分からなくなり、次に同じ見積を出してしまいます。現場間の移動時間や資材置場での段取り時間についても、どちらに付けるかを社内で先に1つ決めて紙に書いておきます。
見積書に労務費の内訳は必要ですか
2025年12月12日に全面施行された改正建設業法で、請負契約の締結に際して材料費や労務費等を記載した材料費等記載見積書の作成が努力義務になりました(建設業法第20条)。法定福利費の事業主負担分、安全衛生経費、建設業退職金共済の掛金は、適正な施工に不可欠な経費として見積書に内訳明示する対象です。また中央建設業審議会が作成した労務費に関する基準を著しく下回る見積りや契約の締結は禁止されています。
公共工事設計労務単価は2026年にいくらですか
2026年3月から適用される分で、全国全職種の単純平均が前年度比4.5%の引き上げとなり、加重平均値は25,834円になりました。2013年度に法定福利費相当額を反映して以降、14年連続の上昇です。この単価には事業主が負担すべき必要経費は含まれていないため、法定福利費の事業主負担分は別に見る必要があります。

出典: 建設業法施行規則別記様式第十五号及び第十六号の国土交通大臣の定める勘定科目の分類を定める件(昭和57年建設省告示第1660号)

出典: 労務費に関する基準(令和7年12月2日 中央建設業審議会決定・国土交通省)

出典: 国土交通省 労務費に関する基準ポータルサイト

出典: 国土交通省 持続可能な建設業の実現のため、建設業法等改正法が完全施行されます

出典: 国土交通省 令和8年3月から適用する公共工事設計労務単価について

出典: 厚生労働省 令和8年度の労災保険率について(令和7年度から変更ありません)

出典: 厚生労働省 令和8年度の労災保険率等について(労災保険率・労務費率・第2種特別加入保険料率)

出典: 厚生労働省 令和8(2026)年度 雇用保険料率のご案内

出典: 全国健康保険協会 令和8年度保険料率のお知らせ

出典: 全国健康保険協会 協会けんぽの子ども・子育て支援金率について

出典: 日本年金機構 保険料額表(令和2年9月分~)(厚生年金保険と協会けんぽ管掌の健康保険)

SOKUOYAKATA編集部

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