先に結論 一人親方は元請の労災では守られない
現場に出る一人親方本人は、労災保険でいう労働者ではない。労災保険法3条1項は、労働者を使用する事業を適用事業とすると書いている。だから元請の労災保険は下請に雇われている作業員までは届いても、一人親方その人には届かない。この穴を埋めるために用意されているのが特別加入で、建設の一人親方は同法33条3号の枠で入る。窓口は監督署ではなく特別加入団体になる。
- 対象は 土木や建築の工作物の建設や解体などを 労働者を使用しないで行うことを常態とする人
- その人の事業に従事する人も 同じ団体を通して一緒に入れる
- 年間保険料は 選んだ給付基礎日額に365を掛け さらに1000分の17を掛けた額
- 入口は特別加入団体 団体が申請書か変更届を監督署長経由で労働局長へ出す
- 補償は治療費 休業 障害 遺族 葬祭 そして通勤災害まで
なぜ元請の労災では届かないのか
労働保険の保険料の徴収等に関する法律8条1項は、厚生労働省令で定める事業が数次の請負によって行われる場合、その事業を一の事業とみなし、元請負人のみを事業主とすると定めている。二次でも三次でも、雇われている作業員がけがをすれば元請の労災保険から給付が出る。
一人親方はそこに入らない。労災保険法35条1項は、一人親方の団体が申請し政府の承認があったとき、その団体を適用事業およびその事業主とみなし、構成員である一人親方を労働者とみなす、という組み立てになっている。団体が会社の代わりを務める形だ。
保険料が滞納されている期間中に生じた事故は、政府が保険給付の全部または一部を行わないことができる(労災保険法35条1項7号)。故意または重大な過失で起こした災害も支給制限の対象になる(同法12条の2の2)。納付が済んでいるかは自分でも確かめておく。
対象になるのは誰か
施行規則46条の17第2号は、対象の事業を「土木、建築その他の工作物の建設、改造、保存、原状回復、修理、変更、破壊若しくは解体又はその準備の事業」と書いている。厚生労働省のしおりは、これにあたる人として大工、左官、とび職人を挙げる。
本人だけではない。労災保険法33条4号は、その人が行う事業に従事する者も対象にしている。手元に入る配偶者や息子も一緒に入れる。
人を使う日があってもすぐ外れるわけではない。しおりは、労働者を使用する日の合計が1年間に100日に満たないときは一人親方等として特別加入できる、としている。忙しい時期だけ手伝いを頼む働き方は、たいていここに収まる。
保険料は日額の選び方で決まる
給付基礎日額は保険料と給付の両方の物差しになる。申請にもとづいて労働局長が決める。選べるのは3,500円から25,000円までの16段階で、施行規則46条の20に並んでいる額を、同46条の24が一人親方等に準用している。低く選べば保険料は下がり、休業したときに受け取る額も下がる。
出し方は単純だ。給付基礎日額に365を掛けたものが保険料算定基礎額になり、そこに事業ごとの率を掛ける。建設の事業の率は1000分の17で、徴収法施行規則の別表第5に第2種特別加入保険料率の特2として載っている。
| 給付基礎日額 | 保険料算定基礎額 | 建設の事業の年間保険料 |
|---|---|---|
| 25,000円 | 9,125,000円 | 155,125円 |
| 20,000円 | 7,300,000円 | 124,100円 |
| 10,000円 | 3,650,000円 | 62,050円 |
| 5,000円 | 1,825,000円 | 31,025円 |
| 3,500円 | 1,277,500円 | 21,709円 |
いちばん下の行だけ掛け算が合わないように見える。加入者全員の保険料算定基礎額を合計した額に千円未満の端数が出たとき切り捨てるからだ。
日額を変えたいときは先に動く。3月2日から3月31日までに給付基礎日額変更申請書を出せば翌年度から変わる。労働保険の年度更新期間中に出せば当年度の日額を変えられる。どちらも災害が起きた後では、その年度の変更は認められない。
補償されるのは現場の作業だけではない
特別加入は、加入者ごとに補償される行為の範囲が決められている。建設業の一人親方等について厚生労働省が示しているのは次の場面だ。
- 請負契約に直接必要な行為を行う場合
- 請負工事現場における作業およびこれに直接附帯する行為を行う場合
- 請負契約に基づくものであることが明らかな作業を自家内作業場において行う場合
- 請負工事に関する機械や製品を運搬する作業およびこれに直接附帯する行為を行う場合
- 台風や火災などの突発事故により予定外に緊急の出勤を行う場合
見積や契約のための行為も、自宅の作業場での加工も入る。運搬は入るが、手工具類程度のものを携行して通勤する場合はここから除かれる。
通勤災害も対象になる
通勤災害の扱いは一般の労働者と同じだ。一人親方等のうち保護から外れているのは個人タクシー業者と個人貨物運送業者、漁船による自営漁業者で、建設の一人親方はそこに入っていない。
受け取れる給付
| 給付 | 内容 | 日額1万円のとき |
|---|---|---|
| 療養(補償)等給付 | 労災病院や労災指定病院等で必要な治療が無料 | 日額と関係なく治療費 |
| 休業(補償)等給付 | 休業4日目以降 1日につき日額の60% | 20日休むと10万2千円 |
| 休業特別支給金 | 休業4日目以降 1日につき日額の20% | 20日休むと3万4千円 |
| 障害(補償)等年金 | 第1級は日額の313日分 | 313万円 別に特別支給金342万円 |
| 遺族(補償)等一時金 | 遺族年金を受け取る遺族がいないとき 日額の1000日分 | 1000万円 別に特別支給金300万円 |
労働者と違うところがひとつある。休業(補償)等給付は、所得が減ったかどうかを問わない代わりに、補償の対象とされている範囲の業務または作業について全部労働不能であることが要る。
入る前に健康診断がいる場合がある
これまでどんな仕事をしてきたかで、加入の前に健康診断を受けることになる。申請書に業務歴を書くのはこのためだ。
| 特別加入の前に従事していた業務 | 通算期間 | 受ける健康診断 |
|---|---|---|
| 粉じん作業を行う業務 | 3年以上 | じん肺健康診断 |
| 振動工具使用の業務 | 1年以上 | 振動障害健康診断 |
| 鉛業務 | 6か月以上 | 鉛中毒健康診断 |
| 有機溶剤業務 | 6か月以上 | 有機溶剤中毒健康診断 |
費用は国が負担し、交通費だけ自己負担になる。療養に専念しなければならないと認められる場合は加入できず、特定の業務からの転換が必要と認められる場合は、その業務以外についてだけ加入が認められる。加入前に発症した病気は給付の対象にならない。
手続きは団体を通る
- すでに労働局長の承認を受けている特別加入団体を探して申し込む
- 顔写真付きの身分証明書を提示して本人確認を受ける
- 必要な人は加入時健康診断を受け 健康診断証明書を用意する
- 団体が特別加入に関する変更届を監督署長経由で労働局長へ出す
- 労働局長の承認が下りる
承認の日付には幅がある。労働局長の承認は、申請の日の翌日から30日以内で申請者が加入を希望する日になる。申し込んだその日から始まるわけではないので、入場日から逆算して申し込む。
業務災害または通勤災害が発生した後に変更届を出しても、すでに発生した災害の給付には反映されない。手続きが遅れたまま現場に出ている期間は、そのまま補償のない期間になる。
資格が消えるとき
- 特別加入者としての要件を満たさなくなった日
- 特別加入団体の構成員でなくなった日
- 団体が解散した日の翌日
脱退の申請は構成員全員を包括して行うものなので、自分ひとりが抜けるときは団体が変更届を出す。
元請の側で確かめること
自社が元請に立つ現場に一人親方が入るなら、そこは元請の労災保険では埋まらない。徴収法8条1項が包むのは下請に雇われている労働者だ。
- 現場に入る一人親方が特別加入しているかを 入場の前に確かめる
- どの団体を通しているか 給付基礎日額をいくらで選んでいるかまで聞く
- 年度が替わる時期に 加入が続いているかをもう一度確かめる
よくある質問
- 一人親方は労災保険に加入しなければいけませんか
- 労災保険法35条1項は、団体が申請して政府の承認があったときに適用する、という形をとっている。加入を義務づける条文は置かれていない。ただし加入していなければ、業務中のけがでも通勤中のけがでも労災保険からの給付はない。
- 一人親方の労災保険料はいくらですか
- 選んだ給付基礎日額に365を掛け、その額に1000分の17を掛けたものが年間保険料になる。日額1万円なら年62,050円、5,000円なら年31,025円、いちばん低い3,500円なら年21,709円だ。日額を下げれば保険料は下がるが、休業したときに受け取る額も同じ割合で下がる。
- 元請の労災保険で一人親方も守られますか
- 守られない。徴収法8条1項によって、数次の請負で行われる建設の事業は一の事業とみなされ、元請負人だけが事業主になる。下請に雇われている労働者は元請の労災保険から給付を受けられるが、誰にも雇われていない一人親方本人はその労働者にあたらない。
- 特別加入はいつから有効になりますか
- 労働局長の承認は、申請の日の翌日から30日以内で申請者が加入を希望する日になる。申し込んだその日から補償が始まるわけではない。現場に入る日が決まっているなら、そこから逆算して団体に申し込む。
- 通勤中のけがも対象になりますか
- 建設の一人親方は対象になる。扱いは一般の労働者と同じで、住居と就業の場所との間の往復などを合理的な経路および方法で行っている間が対象だ。一人親方等のうち保護から外れているのは個人タクシー業者と個人貨物運送業者、漁船による自営漁業者で、建設の一人親方は含まれない。
- 従業員を雇ったら一人親方ではなくなりますか
- 労働者を使用する日の合計が1年間に100日に満たないうちは、一人親方等として特別加入を続けられる。100日以上になると中小事業主等の特別加入へ移ることになり、労働保険事務組合に労働保険事務の処理を委託していることが条件になる。
確認した内容は、聞いた日と相手の名前をつけて残しておく。事故が起きてから探すと記憶では足りない。現場の記録を残す作業そのものを軽くする道具もある。
出典: 労働者災害補償保険法(昭和22年法律第50号)e-Gov法令検索
出典: 労働者災害補償保険法施行規則(昭和30年労働省令第22号)e-Gov法令検索
出典: 労働保険の保険料の徴収等に関する法律(昭和44年法律第84号)e-Gov法令検索
出典: 労働保険の保険料の徴収等に関する法律施行規則(昭和47年労働省令第8号)e-Gov法令検索
出典: 厚生労働省 労災保険への特別加入
出典: 厚生労働省 特別加入制度のしおり(一人親方その他の自営業者用)1 特別加入者の範囲
出典: 厚生労働省 特別加入制度のしおり(一人親方その他の自営業者用)2 特別加入の手続き
出典: 厚生労働省 特別加入制度のしおり(一人親方その他の自営業者用)3 加入時健康診断
出典: 厚生労働省 特別加入制度のしおり(一人親方その他の自営業者用)5 給付基礎日額 保険料
出典: 厚生労働省 特別加入制度のしおり(一人親方その他の自営業者用)6 補償の対象となる範囲
出典: 厚生労働省 特別加入制度のしおり(一人親方その他の自営業者用)7 保険給付 特別支給金の種類
SOKUOYAKATA編集部

