先に結論 労務費は単価と歩掛に割って書く
見積書の労務費を総額ひとつで済ませるやり方が、法律の側から通らなくなった。2025年12月12日に改正建設業法が完全施行され、中央建設業審議会が同年12月2日に勧告した労務費に関する基準に照らして著しく低い労務費を書いた見積は、建設業法違反になる。労務費の出し方は基準に式で書かれている。作業に対応する職種の公共工事設計労務単価に、施工条件と作業内容に見合う歩掛を掛け、必要な数量を掛ける。この式に自社の現場を当てはめられるかどうかが分かれ目になる。
| 段階 | 何が変わったか | 条文 |
|---|---|---|
| 見積を作る | 材料費と労務費と必要経費の内訳 工程ごとの作業と日数を書いた見積書を作る努力義務 | 建設業法20条1項 |
| 見積を出す | 通常必要と認められる額を著しく下回る労務費等を書けない | 20条2項 |
| 見積を受け取る | 注文者は著しく下回る変更を求められない | 20条6項 |
| 契約する | 正当な理由なく原価に満たない金額で契約できない 受注者の側も禁止 | 19条の3第2項 |
| 契約したあと | 見積書を工事の引渡しから10年保存 | 40条の3 施行規則26条5項 28条2項 |
いつからの見積に効くのか
正当な理由なく通常必要と認められる原価に満たない金額で契約してはならないという規定は、2025年12月12日以降に締結された請負契約に適用される。著しく低い労務費等による見積の禁止や、材料費等記載見積書の作成の努力義務は、施行日より後に交付する見積書に適用される。基準そのものは12月2日に中央建設業審議会が決定し、実施を勧告した。
施行日より前に締結した契約の変更契約に係る見積書も、20条の対象に入る。工期が長い案件で契約変更の見積を出すときは、その1枚から新しいルールがかかる。
労務費の出し方は式で決まっている
基準が言う適正な労務費は、1日8時間当たりの職種別の公共工事設計労務単価に、施工条件と作業内容に照らして適正な歩掛を掛けた単位施工量当たり労務費に、必要な数量を掛けた額だ。労務単価は工事の施工場所が属する都道府県に適用される値を使う。設計労務単価を下回る単価を置いてはいけない。
設計労務単価は1日8時間が前提になっている。8時間を上回る、または下回る作業時間が見込まれるなら、単価と歩掛を1時間当たりに割り直して計算する。8時間を超える前提なら、時間外手当を別に見積もる。
東京都の鉄筋工事で数えてみる
国土交通省は、標準的な作業内容と施工条件が特定できる職種分野について、都道府県別に具体的な数値を出している。これが基準値だ。東京都の鉄筋加工と組立の基準値は次のようになっている。
| 職種 | 歩掛 人日/t | 設計労務単価 円/人日 | 労務費 円/t |
|---|---|---|---|
| 鉄筋工 | 1.88 | 33,800 | 63,544 |
| 普通作業員 | 0.38 | 27,000 | 10,260 |
| 合計 | 73,804 |
前提はRCラーメン構造、階高3.5から4.0メートル程度、形状は単純、鉄筋径はD10以上D32以下。揚重機の機械経費と鉄筋の運搬費、足場、発生材の処分費は入っていない。数字の後ろに条件が全部書いてある、という形になっている。
基準値は個別の契約にそのまま当てはめる値ではない。基準値が前提にしている条件と自分の現場の違いを踏まえて補正し、労務費を出す。補正の係数を国が示す予定はないとされている。前提が違うのに数字だけ持ってくると、根拠のない見積になる。
基準より高くしてよい場合 低くしてよい場合
| 現場の状況 | 労務費の扱い |
|---|---|
| 小ロット工事など 基準が想定する条件より歩掛が悪くなる | 基準より高く見積もる必要がある |
| 基準が想定する条件より歩掛が良くなる | 注文者が合理的な範囲で低くできないか交渉してよい |
| 基準と同じ条件で基準を下回る | 原則として不適正 著しく下回れば違法 |
| 機械の導入などで歩掛そのものを改善した | 低く見積もってよい その歩掛で施工できる理由を説明できること |
| 高い技能の技能者が要る 夜間工事などで人の確保にコストがかかる | 労務単価を割り増して見積もってよい |
無根拠に歩掛を割り引いて数字を下げると、著しく低い労務費での見積として建設業法違反になるおそれがある。単価のほうを下げて帳尻を合わせるのも同じだ。逆に、総額が基準と同じか高くても、中身が単価を低く歩掛を厳しく置いたものであれば、賃金の原資が確保されないので不適正とされる。総額ではなく内訳を見る、という判断のしかたになっている。
労務費に入れてはいけないもの
基準が言う労務費は、技能者の賃金相当分だけを指す。法定福利費のうち個人負担分は入るが、事業主が負う分は入らない。次の3つは労務費とは別の行に立てる。
- 法定福利費の事業主負担分
- 安全衛生経費
- 建設業退職金共済制度の掛金
この3つは、建設業法施行規則13条の12で適正な施工を確保するために不可欠な経費と位置づけられ、労務費と同じく内訳明示と著しく低い見積の禁止の対象になっている。さらに、労務管理費や安全管理費、宿舎費といった建設労働者の雇用に伴い必要な経費も労務費には入っていない。国土交通省は参考値として基準値の48パーセントを示している。東京都の鉄筋加工と組立でいえば、基準値73,804円/tに対して109,230円/t。全国調査に基づく試算で、工種や工事規模で変わる。利益と本社経費は含まない。
見積書は10年残す
材料費等記載見積書と、契約締結の前に作った見積内容についての注文者との打合せ記録が、建設業法40条の3の図書に加わった。保存期間は工事の目的物を引き渡したときから10年になる。元請でも下請でも、建設業者であれば保存する。
運用方針は、契約締結にあたって見積書を取り交わした場合、当初見積書と最終見積書の両方を残すよう求めている。当初見積書は設計図書が整ったあとに最初に出した1枚、最終見積書は契約内容の明細を示す1枚だ。この2枚の労務費に差があると、その差がどこで生まれたのかが調べられる。電磁的方法での保存が望ましいとされている。値引きの経緯が残っていない会社は、あとで自分の側の説明ができない。守るための書類だと考えたほうがいい。
値切られたときに持てる根拠
注文者は、交付を受けた見積書の材料費等の額について、通常必要と認められる額を著しく下回ることになるような変更を求めてはならない。これに違反して契約した発注者には、許可行政庁が必要な勧告をすることができ、勧告に従わないときは公表もできる。対象になるのは、その工事を施工するために通常必要と認められる費用の額が500万円以上の請負契約だ。建築一式工事の場合は1,500万円以上になる。
勧告を受けるのは、他から請け負ったものではない工事の注文者、つまり施主にあたる発注者だ。民間の発注者も入る。元請が下請への見積で同じことをした場合は、発注者への勧告ではなく、建設業者としての指導と監督の対象になる。
- 見積の変更を求められた経緯は 見積書と打合せ記録に残す
- 労務費が単価と歩掛の計算として妥当であることを説明できるようにしておく
- 建設業法違反の疑いがある取引は 国土交通省の駆け込みホットラインに相談できる
見積期間には下限がある
注文者は、契約を締結するまでに、19条1項の各号のうち請負代金の額を除く事項について、できる限り具体的な内容を提示し、建設業者が見積をするための期間を設けなければならない。期間は建設業法施行令5条の9に書かれている。
| 工事一件の予定価格 | 設けるべき見積期間 |
|---|---|
| 500万円未満 | 1日以上 |
| 500万円以上 5,000万円未満 | 10日以上 |
| 5,000万円以上 | 15日以上 |
やむを得ない事情があるときは、下の2区分を5日以内に限り短縮できる。効いてくるのは自社が下請へ見積を頼む側になったときだ。内訳を割った見積を求めるなら、割るための時間を渡す。
内訳を書いたことがない会社は何から始めるか
材料費等記載見積書の作成は、すべての建設業者にとって努力義務になった。国土交通省は専門工事業者向けの様式例を詳細版と簡易版の2つ、それに書き方ガイドを公開している。手順にすると次のようになる。
- 自社が技能者に払っている額を職種ごとに1人日あたりに割り直す
- 直近の完了工事で 何人日入って どれだけ仕上げたかを数えて自社の歩掛を出す
- 施工場所の都道府県の公共工事設計労務単価と 自社の1人日あたりの額を並べる
- 国土交通省の様式例に自社の数字を入れて まず1件だけ作ってみる
- 法定福利費の事業主負担分 安全衛生経費 建退共掛金を 労務費と別の行に立てる
許可が要らない範囲で建設業を営む事業者は、20条の見積のルールを直接受けるわけではない。ただし自分が注文者になったときの原価割れ契約の禁止と、行政による指導と助言と勧告は、建設業を営む者すべてにかかる。国土交通省も、こうした小規模な事業者こそ基準を使って労務費を確保してほしいとしている。
歩掛は自社の記録からしか出ない
歩掛は誰かがくれる数字ではない。何人が何日入って、どれだけ仕上げたか。その割り算でしか出てこない。出面と数量が案件ごとに残っていれば歩掛が出る。残っていなければ、公共工事の標準歩掛を借りてくるしかなく、自社の現場と合っているかを説明できない。
運用方針は、歩掛の開示を一律に求める趣旨ではないとしている。秘匿性の高い情報であれば内訳明示の精度を調整してよい。ただし違反の疑いが生じたときは、労務費が単価と歩掛の計算として妥当であることを説明できることが必要になる。開示しなくてよいのと、根拠を持たなくてよいのは別だ。打刻と日報を案件にひもづけて残しておくと、この計算は月末に出る。記録を残す作業そのものを軽くする道具もある。
いまどこまで進んでいるか
国土交通省と中小企業庁の令和7年度下請取引等実態調査の結果が2026年3月31日に公表された。調査は2025年7月7日から9月3日、つまり施行前の状況だ。30,000業者に送り、19,964業者が回答している。回収率は66.5パーセント。
- 下請に対して見積に必要な項目を全て記載して示している元請は 17.9パーセント
- 労務費を内訳明示した見積書を交付している おおむね交付していると答えた下請は 71.3パーセント
- 内訳明示した労務費を含む見積金額の全額が支払われる契約になったと答えた下請は 75.6パーセント
回答のうち不適正な取引に該当するとされた17,207業者に指導票が送られた。出す側の下請は7割が内訳を書いているのに、必要な項目を示している元請は2割に届かない。ここが埋まらないと、書いても比べられない見積が行き交うだけになる。
よくある質問
- 労務費に関する基準はいつから適用されますか
- 中央建設業審議会が2025年12月2日に作成して実施を勧告し、改正建設業法の完全施行と同じ2025年12月12日から動いています。正当な理由なく原価に満たない金額で契約してはならない規定は、同日以降に締結された請負契約に適用されます。著しく低い労務費等による見積の禁止などは、施行日より後に交付する見積書に適用されます。施行日前に締結した契約の変更契約に係る見積書も対象です。
- 見積書に労務費の内訳を書くのは義務ですか
- 材料費等記載見積書を作ることは努力義務で、書かないことが直ちに違反になるわけではありません。ただし注文者から請求があったときは、請負契約が成立するまでに交付しなければなりません。内訳を細かく書かない場合でも、その労務費が適正な水準であることを許可行政庁に説明できる必要があります。
- 基準値がない職種はどうすればいいですか
- 基準値は標準的な作業内容と施工条件が特定できる職種分野から順に、都道府県別に出されているもので、全職種にあるわけではありません。基準値がない職種でも、作業に対応する公共工事設計労務単価に、現場の作業内容と施工条件に見合う歩掛と数量を掛けて労務費を出す考え方は同じです。国土交通省も、基準値がない職種で適正な労務費を確保する必要性は変わらないとしています。
- 著しく低い労務費とはいくらからですか
- 金額や割合の線は示されていません。国土交通省は、著しく低い労務費の程度を示す予定はないとしています。判断は、労務単価が設計労務単価を下回っていないか、歩掛が理由なく良く設定されていないかという中身の側で行われます。基準と同じ条件で基準を下回る見積は原則として不適正、著しく下回れば違法という整理です。
- 見積書はいつまで保存しなければいけませんか
- 材料費等記載見積書と、契約締結の前に作った見積内容についての注文者との打合せ記録は、建設業法40条の3の図書として保存の対象になりました。保存期間は工事の目的物を引き渡したときから10年です。元請か下請かを問わず、建設業者であれば保存します。電磁的方法での保存が望ましいとされています。
- 注文者から労務費を下げてくれと言われたら断れますか
- 注文者は、交付を受けた見積書の材料費等について、通常必要と認められる額を著しく下回ることになるような変更を求めてはならないと定められています。これに違反して契約した発注者は、許可行政庁から勧告を受け、従わないときは公表されることがあります。対象になるのは、その工事に通常必要と認められる費用の額が500万円以上、建築一式工事なら1,500万円以上の契約です。求められた経緯は見積書と打合せ記録に残しておきます。
出典: 中央建設業審議会 労務費に関する基準(令和7年12月2日決定)
出典: 建設業法(昭和24年法律第100号)e-Gov法令検索
出典: 建設業法施行令(昭和31年政令第273号)e-Gov法令検索
出典: 建設業法施行規則(昭和24年建設省令第14号)e-Gov法令検索
SOKUOYAKATA編集部

