先に結論 調査は全件 報告は規模で決まる
建築物や工作物を解体するとき、改修するときは、工事の大きさに関係なく石綿の事前調査をしなければならない。石綿障害予防規則3条1項がそう書いている。そのうえで、一定の規模を超える工事だけが、着工前に労働基準監督署長へ結果を報告する対象になる。この二段構えを取り違えると、小さい改修で調査ごと飛ばすことになる。
| 工事の種類 | 報告が必要になる規模 | 根拠 |
|---|---|---|
| 建築物の解体工事 | 解体部分の床面積の合計が80平方メートル以上 | 石綿則4条の2第1項1号 |
| 建築物の改修工事 | 請負代金の額が100万円以上 | 石綿則4条の2第1項2号 |
| 特定の工作物の解体工事と改修工事 | 請負代金の額が100万円以上 | 石綿則4条の2第1項3号 |
| 鋼製の船舶の解体工事と改修工事 | 総トン数20トン以上 | 石綿則4条の2第1項4号 |
請負代金は税込で判定する。石綿が使われていなかった工事も報告する。条文は工事の規模だけで対象を決めていて、調査結果が「なし」でも義務は消えない。
順番はこの通りに固定されている
- 事前調査を行う 書面と目視で全部の材料を見る
- 有無が分からない材料は分析に回すか 使われているとして扱う
- 調査結果の記録を作る
- 規模の要件に当たれば 着工前に報告システムへ入力する
- 吹付け石綿などを扱う工事は 別に届出を出す
- 作業主任者を選任し 特別教育を済ませてから着工する
- 現場に掲示し 記録の写しを備え付ける
- 終わったら記録を保存する
順番は動かせない。報告は着工前、届出は特定粉じん排出等作業の開始の日の14日前までだ。工程はその作業開始日から逆算し、14日を先に確保する。
一 事前調査は書面と目視の両方でやる
石綿則3条2項は、対象になる部分の全ての材料を、設計図書等の文書の確認と目視の両方で調べろと求める。図面が無ければ書面の確認は省ける。構造上目視できない材料も外れるが、見えるようになった時点で調べ直す義務が残る(3条9項)。
それでも有無が分からなければ分析調査に回す(3条5項)。省く道もある。石綿が使われているとみなして法令上の措置を全部講じるなら、それでよい。分析費用と養生や保護具の費用を比べる。
よく効く例外がある。着工日が平成18年9月1日以降の建築物や工作物なら、その着工日を設計図書等の文書で確認する方法だけで足りる(3条3項3号)。配管のガスケットが絡むものは業種ごとに別の日付だ。
この例外に当たれば有資格者の義務もかからず、報告する事項も4つに減る。竣工年月日の分かる書類を先に揃えると調査が軽くなる。
二 資格が要る時期は建築物と工作物で違う
令和5年10月1日以降に着工する工事から、建築物の事前調査は資格を持った人が行う(石綿則3条4項)。厚生労働大臣が定める資格は3種類ある。
- 特定建築物石綿含有建材調査者 全ての建築物を調査できる
- 一般建築物石綿含有建材調査者 全ての建築物を調査できる
- 一戸建て等石綿含有建材調査者 一戸建て住宅と共同住宅の内部に限られ 共用部分は調査できない
令和5年9月30日までに日本アスベスト調査診断協会へ登録した人も、この3種類と同じように建築物の事前調査を行える。
工作物は遅れて動いた。令和8年1月1日以降に着工する工事から、17種類の特定工作物の事前調査は資格者が行う。誰が行えるかは、その17種類の中で二つに分かれる。
- 反応槽 加熱炉 ボイラー及び圧力容器 配管設備 焼却設備 貯蔵設備 発電設備 変電設備 配電設備 送電設備の10種類 工作物石綿事前調査者に限られる
- 煙突 トンネルの天井板 プラットホームの上家 遮音壁 軽量盛土保護パネル 鉄道の駅の地下式構造部分の壁及び天井板 観光用エレベーターの昇降路の囲いの7種類 一般建築物石綿含有建材調査者や特定建築物石綿含有建材調査者でも行える
17種類に入らない工作物は、塗料など石綿が使われているおそれがある材料の除去等の作業に係る調査だけが資格者の対象だ(3条4項ただし書)。
三 報告は着工前に出す
石綿則4条の2第1項は、対象の工事を行おうとするときは「あらかじめ」電子情報処理組織を使って所轄労働基準監督署長へ報告しろと書く。大気汚染防止法の側は、元請業者または自主施工者が調査を行ったときは遅滞なく都道府県知事へ報告する(18条の15第6項)。宛先も言い方も違うが、石綿事前調査結果報告システムに一度入力すれば両方に届く。
システムの利用にはGビズIDが要る。メールアドレスがあれば即日発行できるエントリーと、審査を経て発行されるプライムがあり、報告はどちらでもできる。プライムの申請方法は、事業区分やマイナンバーカードの保有状況によってオンライン申請と書類申請に分かれる。複数の工事を一括で申請する機能はプライムだけなので、件数が多い会社は審査の日数を見込んで先に取っておく。
契約を割っても逃げられない。同一の事業者が2つ以上の契約に分割して請け負う場合は、1つの契約とみなして規模を判定する(石綿則4条の2第4項、大気汚染防止法施行規則16条の11第3項)。70万円と50万円に分けても、合計120万円の工事として扱う。
報告を出すのは元請だ。石綿則4条の2第5項は、最も先次の請負契約における注文者が作業の全部をまとめて報告すると定める。下請が出すのではない。
四 レベル1とレベル2は別に届出が要る
吹付け石綿、石綿を含有する断熱材、保温材、耐火被覆材を扱う工事には別の届出がある。大気汚染防止法18条の17第1項により、特定粉じん排出等作業の開始の日の14日前までに都道府県知事へ出す。ここで義務者が入れ替わる。届け出るのは発注者か自主施工者で、元請ではない。
労働安全衛生法の側にも届出がある。吹付け石綿の除去等と、著しく粉じんを発散するおそれのある石綿含有保温材等の除去等の作業は、工事開始の日の14日前までに労働基準監督署長へ計画を届け出る(安衛法88条3項、安衛則90条5号の2と5号の3)。
| 出すもの | 出す人 | 宛先 | 期限 |
|---|---|---|---|
| 事前調査結果の報告 | 元請業者(自主施工なら自主施工者) | 労働基準監督署長と都道府県知事 | 着工前 |
| 特定粉じん排出等作業の届出 | 発注者または自主施工者 | 都道府県知事 | 作業開始の14日前まで |
| 工事計画届 | 元請負人または自ら行う発注者 | 労働基準監督署長 | 工事開始の14日前まで |
| 作業届 | 計画届を出さない事業者 | 労働基準監督署長 | あらかじめ |
発注者にも法律上の義務がある
調査費用を値切られる話はよく出る。大気汚染防止法18条の15第2項は、発注者は調査に要する費用を適正に負担するなどして調査に協力しなければならないと定める。努力義務ではない。
元請の側には説明義務がある。同条1項により、調査の結果と、特定工事に当たるときは石綿の種類や使用箇所と使用面積、作業の種類と期間と方法を書面にして交付する。時期は工事開始の日まで。届出対象特定工事で作業を14日以内に始めるなら作業開始の14日前だ(同法施行規則16条の6)。
現場に貼るものと後に残すもの
石綿則3条8項は、作業場の見やすい箇所に調査終了日と材料ごとの石綿の有無の概要を掲示させる。除去等の作業場には調査記録の写しを備え付ける。大気汚染防止法18条の15第5項にも掲示の義務があり、掲示板は42.0センチメートル×29.7センチメートル以上と決まっている(同法施行規則16条の9)。
- 事前調査と分析調査の記録 調査終了日から3年間 石綿則3条7項
- 大気汚染防止法側の調査記録と説明書面の写し 工事終了の日から3年間 同法施行規則16条の8
- 作業計画どおり作業したことが分かる写真などの記録 作業終了の日から3年間 石綿則35条の2
- 石綿を取り扱う作業に常時従事した労働者の記録 従事しなくなった日から40年間 石綿則35条
最後の40年が効いてくる。中皮腫や肺がんは数十年たってから出る。従業員が辞めても会社が変わっても残す。誰がいつどの現場で扱ったかを、名前で引ける形にしておく。
出さなかったときに何が起きるか
大気汚染防止法は罰則を条文に持つ。事前調査結果の報告をしない、虚偽の報告をしたときは30万円以下の罰金(35条4号)。特定粉じん排出等作業の届出をしない、虚偽の届出をしたときは3月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金(34条1号)。従業者の違反でも法人に罰金刑が科される(36条)。
罰金の重さは労働安全衛生法の側が上だ。工事計画届を出さなかったときは50万円以下の罰金(安衛法120条1号)。ここでも従業者の違反で法人に罰金刑が科される(122条)。
罰金だけではない。都道府県知事は作業基準を守っていないと認めるとき、作業の一時停止を命じられる(18条の21)。止まった日数のほうが痛い。
見落としやすいところ
- 石綿が無い建物でも 規模の要件に当たれば報告する
- 報告の規模を下回るから調査も不要 とは読めない
- 分割した契約は合算される
- 届出対象特定工事の届出義務者は発注者で 元請ではない
- 壁を剥がして初めて見えた材料は その場で調べ直す
石綿の手続きは、判断より、いつ何を出したかを示せるかで差がつく。調査記録も報告の控えも掲示の写真も、案件と日付でひとまとめなら、問われたその場で出せる。記録を残す作業そのものを軽くする道具を使う手もある。
よくある質問
- 石綿が使われていない建物でも報告は必要ですか
- 必要です。石綿則4条の2は工事の規模だけで報告の対象を決めていて、調査結果が石綿なしでも義務は消えません。報告では、材料ごとに石綿に該当しないと判断した根拠の概要まで入れます。
- 事前調査の報告はいつまでにすればいいですか
- 石綿則4条の2は「あらかじめ」と書いていて、工事を始める前に出します。大気汚染防止法の側は、調査のあと遅滞なく都道府県知事へ報告する書き方です。報告システムに一度入力すれば両方に届きます。
- 2006年より後に建てた建物でも調査は要りますか
- 調査自体は要ります。ただし着工日が平成18年9月1日以降の建築物や工作物は、その着工日を設計図書等の文書で確認する方法で足ります。有資格者に行わせる義務もかからず、報告する事項も4つに減ります。
- 改修工事を分けて発注すれば100万円未満にできますか
- できません。同一の事業者が2つ以上の契約に分割して請け負う場合は、1つの契約で請け負ったものとみなして規模を判定すると石綿則4条の2第4項が定めています。
- 報告や届出は誰が出すのですか
- 事前調査結果の報告は元請が出します。石綿則は、最も先次の請負契約における注文者が作業の全部をまとめて報告すると定めていて、下請が出すものではありません。特定粉じん排出等作業の都道府県知事への届出は、発注者または自主施工者です。
- 工作物の解体でも資格者が要りますか
- 令和8年1月1日以降に着工する工事から、特定工作物の事前調査は資格者が行います。反応槽や配管設備、貯蔵設備など10種類は工作物石綿事前調査者に限られ、煙突やトンネルの天井板など7種類は建築物石綿含有建材調査者でも行えます。合わせて17種類が特定工作物です。それ以外の工作物は、塗料など石綿のおそれがある材料の除去等に係る調査だけが対象です。
出典: 石綿障害予防規則(平成17年厚生労働省令第21号)e-Gov法令検索
出典: 大気汚染防止法(昭和43年法律第97号)e-Gov法令検索
出典: 大気汚染防止法施行令(昭和43年政令第329号)e-Gov法令検索
出典: 大気汚染防止法施行規則(昭和46年厚生省・通商産業省令第1号)e-Gov法令検索
出典: 労働安全衛生法(昭和47年法律第57号)e-Gov法令検索
出典: 労働安全衛生規則(昭和47年労働省令第32号)e-Gov法令検索
出典: 厚生労働省 石綿総合情報ポータルサイト 石綿事前調査結果報告システム
出典: 厚生労働省 石綿総合情報ポータルサイト 建築物石綿含有建材調査者
出典: 厚生労働省 石綿総合情報ポータルサイト 工作物石綿事前調査者
出典: 厚生労働省 石綿対策
SOKUOYAKATA編集部



