安全最終更新 11

特定技能・技能実習の職人と現場の安全教育の進め方

通訳を雇うかどうかの話ではない。法令が引いている線と、現場で本当に伝わる手は、分けて考えたほうが早い。

外国人職人を現場に入れるときの安全教育。雇入れ時教育は全員必須で、入場前にルール・危険・緊急時対応を伝える。母国語か平易な日本語で、理解度を確認しながら伝える。特別教育や資格が要る作業は日本人と同じ扱いになる、という3点の図

先に結論

外国人の職人を現場に入れるとき、やることは大きく2つに分かれる。法令が「やれ」と言っていることと、法令には書いていないが事故を減らすことだ。前者を飛ばすと監督署が来る。後者を飛ばすと人が落ちる。

  1. 雇入れ時教育を8項目すべて行う。日本人と同じ内容を、相手が分かる方法で
  2. 危険な作業には特別教育、資格が要る作業には技能講習。ここは日本人とまったく同じ
  3. 教育は「母国語その他その人が使う言語、または平易な日本語」で行う。厚生労働省の指針が名指ししている
  4. 特定技能なら支援計画。事前ガイダンス、生活オリエンテーション、3か月に1回の面談は、本人が十分に理解できる言語で実施することが法令上の基準
  5. 記録を残す。特別教育は受講者と科目の記録を3年間保存する義務がある

法令で必ずやること

やること根拠主な対象やらなかったとき
雇入れ時教育(8項目)安衛法59条1項・安衛則35条全員。作業内容を変えたときも50万円以下の罰金(法120条1号)
特別教育安衛法59条3項・安衛則36条足場の組立て等、ロープ高所作業、フルハーネス使用作業、アーク溶接、研削といしの取替え、作業床10m未満の高所作業車など6月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金(法119条1号)
就業制限(免許・技能講習)安衛法61条1項車両系建設機械3トン以上、玉掛け1トン以上、小型移動式クレーンなど6月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金(法119条1号)
職長教育安衛法60条新たに職長になる人(建設業は対象業種)50万円以下の罰金(法120条1号)

雇入れ時教育は2024年4月1日に変わった。それまで安衛則35条1項のただし書は、労働安全衛生法施行令2条3号の「その他の業種」について最初の4項目を省くことを認めていた。そのただし書が削られ、全業種で対象になっている。ただし建設業は同令2条1号で、もともとこの省略の対象ではない。つまりこの改正で建設業のやることは変わっていない。8つの候補は以前から全部が対象で、中身はこうだ。

条文は「次の事項のうち当該労働者が従事する業務に関する安全又は衛生のため必要な事項について、教育を行なわなければならない」と書いている。8つを機械的に全部やれ、ではない。厚生労働省のQ&Aも「労働者が従事する業務に応じて、必要な教育を実施していただくことになります」としている。
  • 機械等、原材料等の危険性または有害性と、その取扱い方法
  • 安全装置、有害物抑制装置、保護具の性能と取扱い方法
  • 作業手順
  • 作業開始時の点検
  • その業務で発生するおそれのある疾病の原因と予防
  • 整理、整頓、清潔の保持
  • 事故時の応急措置と退避
  • そのほか、その業務の安全衛生に必要な事項

省略できる場合もある。安衛則35条2項は「十分な知識及び技能を有していると認められる労働者」について省略を認めている。ただしここで言っているのは知識と技能であって、言葉ではない。日本語が分からないことは省略の理由にならないし、「言っても分からないから省いた」は省略ではなく不実施になる。

母国語等とは何を指すか

厚生労働省の「外国人労働者の雇用管理の改善等に関して事業主が適切に対処するための指針」は告示として出ている行政の要求で、2026年5月29日の改正を含む版が現在有効だ。安全衛生についてはこう書かれている。

事業主は、労働安全衛生法等の定めるところにより外国人労働者に対し安全衛生教育を実施するに当たっては、母国語等を用いる、視聴覚教材を用いる等、当該外国人労働者がその内容を理解できる方法により行うこと。特に、外国人労働者に使用させる機械等、原材料等の危険性又は有害性及びこれらの取扱方法等が確実に理解されるよう留意すること。

この指針は「母国語等」を「母国語その他の当該外国人が使用する言語又は平易な日本語」と定義している。通訳を常駐させろとは書いていない。平易な日本語でも要件は満たす。同じ章には、ほかに3つの努力義務が並ぶ。

  • 労働災害防止の指示等を理解できるよう、必要な日本語と基本的な合図を習得させること
  • 労働災害防止に関する標識や掲示は、図解等を用いて内容が分かる方法にすること
  • 健康診断や面接指導、ストレスチェックは、目的と内容を理解できる方法で説明すること

数字で見るとどこが危ないか

厚生労働省が2025年5月30日に公表し、同年8月22日に一部訂正した令和6年の集計から。いずれも新型コロナウイルス感染症へのり患によるものを除く。

項目令和6年
建設業の死亡者数232人
建設業の休業4日以上の死傷者数13,849人
外国人労働者の死傷者数(全産業)6,244人
うち建設業1,165人(18.7%)
外国人労働者の死傷年千人率2.71
全労働者の死傷年千人率2.35
技能実習の死傷年千人率3.98
特定技能の死傷年千人率3.91

建設業で被災した外国人1,165人のうち、技能実習が665人、特定技能が183人。合わせて7割を超える。事故の型の内訳はこうなる。

  • 墜落・転落 222人
  • はさまれ・巻き込まれ 199人
  • 飛来・落下 156人
  • 切れ・こすれ 124人
  • 激突され 105人
  • 転倒 101人

死亡災害でも、外国人労働者39人のうち建設業が13人と業種別で最多。建設業全体でも死亡232人のうち墜落・転落が77人で最多だった。外国人だから特別な災害が起きているのではない。日本人が落ちる場所で、同じように落ちている。差が出ているのは頻度で、技能実習と特定技能の千人率は全労働者の1.7倍前後になる。第14次労働災害防止計画は、外国人労働者の死傷年千人率を2027年までに全体平均以下にする目標を掲げている。

母数も押さえておく。建設業で働く外国人は令和6年10月末時点で177,902人、受け入れている事業所は44,811か所ある。

在留資格ごとに上に乗る義務

特定技能1号

安衛法の義務に加えて、支援計画の実施義務がかかる。省令で「外国人が十分に理解することができる言語により実施されること」が基準とされているのは次の4つだ。

  • 事前ガイダンス
  • 生活オリエンテーション。防災、防犯、急病その他の緊急時対応を含み、運用要領は少なくとも8時間以上が必要としている
  • 相談または苦情への対応
  • 定期的な面談。本人と、その監督をする立場の人それぞれと3か月に1回以上

面談で労働基準法その他の労働関係法令の違反を知ったときは、労働基準監督署などへ通報する義務まで書かれている。安全に関する不満を面談で握りつぶすと、支援不履行の問題になる。

建設分野の上乗せ

建設分野には、ほかの分野にない条件が国土交通大臣の認定する建設特定技能受入計画としてかかる。

  • 建設業法3条の許可を受けていること
  • 受入企業と1号特定技能外国人の双方が建設キャリアアップシステム(CCUS)に登録していること
  • 建設技能人材機構(JAC)への加入と、同機構が策定する行動規範の遵守
  • 同等の技能を有する日本人と同等額以上の報酬、月給制による安定的な支払い、技能習熟に応じた昇給
  • 賃金など契約上の重要事項を、本人が十分に理解できる言語で書面により事前説明すること
  • 受入れ後、国土交通大臣が指定する講習または研修を受講させること
  • 国または適正就労監理機関による巡回指導を受け入れること

2027年4月からの育成就労

技能実習は発展的に解消され、育成就労に変わる。改正法は2024年6月21日公布、運用開始は2027年4月1日。社長として押さえるのは3点。

  • 就労開始までに、日本語能力A1相当以上の試験(JFT-Basic、日本語能力試験のN5等)の合格か、それに相当する日本語講習の受講が要る。入ってくる時点の日本語の下限が上がる
  • 建設分野は、本人の意向による転籍の制限期間が2年(分野ごとに1年か2年で設定)。転籍には分野ごとに定められた技能試験と日本語試験の合格が条件になる
  • 育成就労計画の認定申請は、施行日前申請として2026年9月1日から受付が始まる。監理支援機関の許可申請は2026年4月15日から受付が始まっている

元請と下請どちらの義務か

教育の実施義務は雇っている事業者にある。下請の社長が「元請が新規入場者教育をやってくれるから」と考えるのは違う。ただし元請にも義務がある。

  • 元方事業者は、関係請負人とその作業従事者が安衛法令に違反しないよう必要な指導を行う(法29条1項)。違反していると認めるときは是正のため必要な指示を行う(同2項)
  • 特定元方事業者は、関係請負人が行う安全衛生教育に対する指導と援助を行う(法30条1項4号)。具体的には教育を行う場所の提供、教育に使用する資料の提供等(安衛則638条)
  • 作業場所の巡視は毎作業日に少なくとも1回(安衛則637条)

つまり「多言語の資料がない」は元請に相談していい話だ。場所と資料を出すのは元請の義務として条文に書かれている。

現場で実際に効く工夫

分かったかを聞かない

「分かりましたか」と聞くと、ほぼ全員が「はい」と答える。分かっていなくても答える。確かめ方は3つしかない。本人にやらせて見る、本人の言葉で言い直させる、指差しで場所を示させる。教育の締めを質疑応答ではなく復唱にすると、通じていない箇所がその場で出る。

一文に動作を1つだけ入れる

「そこ足場崩れるから先に単管外して下から回して」は、日本語が母語でも聞き取りにくい。「単管を外します」「下から回ります」と切る。否定は「〜しないでください」に統一し、禁止と注意を同じ言い方にしない。「危ない」は禁止には聞こえない。

覚えてもらう日本語を10語に絞る

指針が言う「必要な日本語及び基本的な合図」を全部教えようとすると続かない。命に直結する語だけ絞って壁に貼る。止まれ、危ない、下がって、上を見て、電源を切る、ゆっくり、待って、手を離す、応援を呼ぶ、痛い。これに現場の合図を足す。安全帯の掛け替えを指差しで示す合図が一つあるだけで、高所での会話が減る。

掲示を文字から絵に変える

貼り紙が日本語の文章だけなら、読まれていないと考えたほうがいい。写真を撮って貼るのが早い。正しい掛け方の写真と、その現場で実際に危なかった場所の写真。ピクトグラムと色は言語をまたぐ。指針が標識や掲示に図解等を求めているのも同じ理屈だ。

ただで使える教材がある

  • 厚生労働省の「マンガでわかる働く人の安全と健康」。日本語を含む11言語、8業種と業種共通の教材がある
  • 技能講習補助教材。フォークリフト、玉掛け、車両系建設機械(整地・掘削/解体)、高所作業車、ガス溶接など9種類について、日本語と外国語の見開き対訳テキスト、スライド、用語集が14言語で公開されている。登録教習機関のテキストと併用する前提の教材
  • 外国語対応の技能講習を実施している登録教習機関の一覧も厚生労働省が出している

止める権利を最初に渡す

危ないと思ったら止めていい、止めても叱られない。これを最初の日に、本人が分かる言語で伝える。ここを伝えていない現場では、分からないまま作業が進む。特定技能の3か月に1回の面談は、この確認に使える枠でもある。

事故が起きたときの手続き

労働災害で労働者が死亡または休業したときは、労働者死傷病報告を出す。休業4日以上は遅滞なく、休業1日から3日は四半期ごとにまとめて提出する。2025年1月1日から、この報告は電子申請が義務化された(電子申請が困難な場合は当面の間、書面も認められる)。報告事項も改正され、コードから選択する欄が増えている。国籍や在留資格で扱いは変わらない。労働基準法3条は国籍を理由とする労働条件の差別的取扱いを禁じており、指針も均等待遇を明記している。

「言葉が通じないから危ない作業は任せない」という配り方は、一見安全に見えて逆に働くことがある。危ない作業から遠ざけたまま現場に置くと、本人は危険の見分け方を覚えないまま年数だけ経つ。教えるコストを払わない判断は、先送りにしかならない。

現場で起きたことを記録に残すところは、どうしても後回しになる。ソクオヤカタは、現場写真と一言のメモから見積や日報、完了報告の下書きを作る建設・設備業向けのサービスで、画面は日本語、ベトナム語、インドネシア語、英語、中国語、ミャンマー語の6言語に対応している。作業をした本人が自分の言語で入力し、社長は日本語で読める。安全教育そのものを代われるわけではないが、誰にいつ何を教えたか、今日どこで何をしたかを、あとから引ける形に残す手間は減らせる。

よくある質問

外国人の職人にも雇入れ時教育は必要ですか
必要だ。安衛法59条1項と安衛則35条の義務は国籍で変わらないし、2024年4月1日からは業種による省略規定もなくなり、全業種で8項目すべてが必須になっている。安衛則35条2項が認めている省略は十分な知識及び技能を有していると認められる労働者についてのもので、日本語が分からないことは省略の理由にならない。
安全教育は母国語でやらないといけませんか
通訳を常駐させろとまでは求められていない。厚生労働省の指針は「母国語等」を母国語その他その外国人が使用する言語または平易な日本語と定義していて、視聴覚教材を用いるなど本人が内容を理解できる方法であれば要件を満たす。特に機械等や原材料等の危険性、有害性とその取扱方法が確実に理解されるよう留意することとされている。
雇入れ時教育をやらなかったらどうなりますか
雇入れ時教育と職長教育は50万円以下の罰金(安衛法120条1号)。特別教育と就業制限はこれより重く、6月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金(同119条1号)になる。特別教育は受講者と科目の記録を3年間保存する義務もあるので、実施したことを後から示せる形で残すところまでが義務だと考えたほうがいい。
安全教育は元請と下請のどちらがやりますか
実施の義務は雇っている事業者にある。元請が新規入場者教育をやるからといって、下請が自社の雇入れ時教育を免れるわけではない。ただし特定元方事業者には関係請負人が行う安全衛生教育への指導と援助の義務があり(安衛法30条1項4号)、安衛則638条は教育を行う場所の提供や資料の提供を挙げている。多言語の資料がないことは元請に相談していい話だ。
特定技能の面談は何か月に1回必要ですか
3か月に1回以上で、本人と、その監督をする立場の人それぞれと行う。この面談は事前ガイダンスや生活オリエンテーションと同じく、外国人が十分に理解することができる言語で実施することが省令の基準になっている。面談で労働基準法その他の労働関係法令の違反を知ったときは、労働基準監督署などへ通報する義務まで定められている。
育成就労はいつから始まりますか
運用開始は2027年4月1日で、改正法は2024年6月21日に公布されている。育成就労計画の認定申請は施行日前申請として2026年9月1日から受付が始まり、監理支援機関の許可申請は2026年4月15日から受付が始まっている。就労開始までに日本語能力A1相当以上の試験の合格か、それに相当する日本語講習の受講が要るので、入ってくる時点の日本語の下限が上がる。

出典: 労働安全衛生法(e-Gov法令検索)

出典: 労働安全衛生規則(e-Gov法令検索)

出典: 厚生労働省「令和6年の労働災害発生状況を公表」(令和7年5月30日)

出典: 厚生労働省「令和6年における労働災害発生状況(確定値)」

出典: 厚生労働省「令和6年労働災害発生状況について(参考資料)」

出典: 厚生労働省「令和6年労働災害発生状況の訂正について」(令和7年8月22日)

出典: 厚生労働省「外国人労働者の雇用管理の改善等に関して事業主が適切に対処するための指針」(平成19年厚生労働省告示第276号、令和8年5月29日告示第227号改正)

出典: 厚生労働省「『外国人雇用状況』の届出状況まとめ(令和6年10月末時点)」

出典: 厚生労働省「外国人労働者の安全衛生管理」

出典: 厚生労働省「技能講習補助教材」

出典: 厚生労働省「労働者死傷病報告の報告事項が改正され、電子申請が義務化されました(令和7年1月1日施行)」

出典: 出入国在留管理庁「育成就労制度の制度概要・関係法令」

出典: 出入国在留管理庁「育成就労制度の概要(令和8年7月改訂)」

出典: 出入国在留管理庁「1号特定技能外国人支援に関する運用要領(1号特定技能外国人支援計画の基準について)」

出典: 国土交通省「概要、関係資料【特定技能制度(建設分野)】」

出典: 厚生労働省 化学物質による労働災害防止のための新たな規制に関するQ&A(令和6年2月28日更新)

出典: 労働安全衛生法施行令(昭和47年政令第318号)e-Gov法令検索

SOKUOYAKATA編集部

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