安全10

現場の熱中症対策の義務化で会社がやること

義務は二つ、報告させる体制と悪化を防ぐ手順。どちらも作業者に周知するところまでが要件になる。対象になる現場の線引きから整理した。

WBGT計が31.2度を示す現場で水分を取る作業員と、報告する体制の整備・離脱と冷却と受診の手順・作業者への周知が並んだ熱中症対策の手順書

先に結論 義務は二つと周知だけ

2025年6月1日から、労働安全衛生規則に第612条の2が加わった。事業者に課されたのは二つ。熱中症の自覚症状がある人や、様子がおかしい人を見つけた人が報告できる体制をあらかじめ整えること。もう一つは、作業からの離脱、身体の冷却、必要に応じた医師の診察や処置を含む、悪化を防ぐ措置の内容と手順を作業場ごとに定めること。その両方を作業に従事する人へ周知するところまでが要件になる。装備を買えとも、WBGT計を設置しろとも書かれていない。

  • 報告を受ける人の連絡先と連絡方法を決めて明示する
  • 離脱 冷却 受診の手順と緊急連絡先を作業場ごとに紙にする
  • その二つを作業に従事する全員へ伝える

対象になる現場の線引き

条文は「暑熱な場所において連続して行われる作業等熱中症を生ずるおそれのある作業」と書いている。この中身は通達で定義されている。暑熱な場所とは、WBGT値が28度以上または気温が31度以上の場所。そこで継続して1時間以上、または1日あたり4時間を超えて行われることが見込まれる作業が対象になる。出張先、複数の場所を移動しての作業、作業場所から作業場所への移動時も含む。非定常作業や臨時の作業でも、条件を満たす見込みがあれば対象だ。

現場の状況義務がかかるか
気温32度の屋外で朝から夕方まで施工かかる
気温32度の屋外で30分の点検を1回だけかからない
WBGT29度の天井裏で2時間の配線かかる
1回20分の作業を1日5回 合計100分継続1時間未満で1日4時間以下のため対象外
冷房の切れた夜間の屋内で31度 3時間かかる
移動を挟みながら複数現場で計5時間かかる

該当の判断は、作業が行われる場所でWBGT値か気温を実測するのが原則。ただし通風のよい屋外作業は、天気予報やスマートフォンのアプリ、環境省の熱中症予防情報サイトで判断できるならそれでよいとされている。通達が例外にしているのはここまでで、屋内や輻射熱のある場所は実測で判断する。

条件を満たさない作業でも、作業強度や着ているものによっては熱中症のリスクが上がる。通達は、そうした場合も改正省令に準じた対応を行うよう努めることとしている。判断に迷う現場は、対象として扱うほうが早い。

一つ目の義務 報告させる体制

体制の整備には、報告を受ける責任者の連絡先と連絡方法を定めて明示し、作業中はいつでも報告を受けられる状態を保つことが含まれる。通達はこれに加えて、電話等による報告を受けるだけでなく進んで早期に発見する観点から、推奨される方法を挙げている。

  • 責任者による作業場所の巡視
  • 2人以上で互いの健康状態を確認するバディ制
  • ウェアラブルデバイスによるリスク管理
  • 責任者と作業者の双方向の定期連絡

ウェアラブルデバイスは、着けた人の状態を必ずしも正確に把握できるわけではないと通達が明記している。単独で頼らず、巡視や声かけと組み合わせて使う。

期限は、対象作業が行われる作業日の作業開始前まで。夏季の屋外作業のように一定期間ずっと暑熱環境になることが明らかなら、余裕をもって体制を組み、先に周知しておくよう努めることとされている。同じ人が続けて従事する場合、整備と周知が済んでいれば作業日ごとにやり直す必要はない。

二つ目の義務 悪化を防ぐ手順

手順は作業場ごとに定める。中身は条文が名指ししている。作業からの離脱、身体の冷却、必要に応じて医師の診察または処置を受けさせること。通達はここに、事業場の緊急連絡網と緊急搬送先の連絡先をあらかじめ作成しておくことを加えている。搬送先は所在地まで書いておくのが望ましいとされる。

  1. おかしいと思ったら誰に何で連絡するか
  2. どこへ移して どうやって冷やすか
  3. 救急要請の判断に迷ったときの相談先
  4. 搬送先の病院名 住所 電話番号
  5. 回復したあと 帰宅後に悪化したときの連絡先

身体の冷却として通達が挙げるのは、作業着を脱がせて水をかける、アイスバスに入れる、涼しい休憩所へ避難させる、ミストファンを当てるといった体外からの冷却と、アイススラリーを摂取させる体内からの冷却だ。この間に容態が急変することがあるため、一人きりにせず他の人が見守ることとされている。

熱中症が疑われる人が出たときは、WBGT値や作業時間に関係なく手順に沿って対処する。手順どおりが難しい状況なら、重篤化を防ぐ観点で合理的な措置を取ればよいと通達は書いている。救急要請に迷う場合は#7119などで相談し、指示を仰ぐことが望ましいとされている。

周知の方法と記録の扱い

周知の方法は、見やすい場所への掲示、メールの送付、文書の配布、朝礼での口頭伝達のいずれでも原則として差し支えない。ただし内容が複雑で口頭では確実に伝わらない場合や、朝礼に出ない人がいる場合を想定して、必要に応じて複数の手段を組み合わせる。掲示例と手順例は通達の別添にある。

周知した結果の記録の保存までは法令で求められていない。ただし通達は、労働基準監督署による確認に際しては事業者として適切に対応することが求められる、と付け加えている。掲示の写真と朝礼の日付が残っていれば話が早い。

元請と下請のどちらに義務がかかるか

両方にかかる。第612条の2は労働安全衛生法第22条に基づく規定で、個々の事業者に措置義務が課される。建設現場のような混在作業で同一の作業場に複数の事業者が入る場合、元方事業者と関係請負人の事業者のいずれにも義務が生じる。措置が行われていなければ元請だけでなく、その作業場に関わる全ての事業者に違反が生じると通達に書かれている。

周知の方法として通達が挙げるのは、各事業者が共同して一つの緊急連絡先を定め、見やすい場所に掲示することだ。現場ごとに一枚を全社で共有するのが軽い。

対象になる人の範囲も広い。通達は、条文の「当該作業に従事する者」に、労働者と同じ場所でその作業に従事する労働者以外の者が含まれるとしている。条文の文言は2026年4月1日から「当該作業に従事する作業従事者」に変わったが、作業従事者は労働安全衛生法で「事業を行う者が行う仕事の作業に従事する者」と定義され、労働者以外も含む言葉だ。一人親方も協力会社の職人も周知の相手だ。通達はさらに、対象外の作業をしている人にも広く緊急連絡先を周知することが望ましいとしている。不調を見つけるのが、隣で別の作業をしている人であることも想定されるからだ。

WBGT基準値と休憩の目安

義務は体制と手順だが、どこから危ないかの物差しは厚生労働省が示している。2026年3月26日公表の職場における熱中症防止のためのガイドラインが、身体作業強度と暑熱順化の状況に応じたWBGT基準値を表にしている。暑熱順化者とは、少なくとも1週間以前から同様の高温作業条件にばく露された人を指す。

作業の例順化した人順化していない人
点検 小さい部品のドリル作業30度29度
しっくい塗り 建設車両の運転 中くらいの重さの材料を断続的に持つ28度26度
重量物の運搬 ショベル作業 ハンマー作業 コンクリートブロックを積む26度23度
激しくシャベルを使ったり掘ったりする 階段を昇る25度20度

着ているものによっては、基準値と比べる前にWBGT値へ補正値を足す。作業服の上につなぎ服を着た二重着用は3度、フードなしの単層の不透湿つなぎ服は10度、フード付きなら11度を加える。防護服を着る改修現場では、数字が一気に跳ね上がる。

ガイドラインは、身体を冷却する服を着ていないなど特段の対策を講じていない場合の休憩時間の目安も示している。暑熱順化した作業者を前提にした数字で、順化していない人にはこれより長い休憩が望ましいとされる。

休憩時間の目安は1時間あたり、基準値から1度程度の超過で15分以上、2度程度で30分以上、3度程度で45分以上。それ以上の超過は作業中止が望ましいとされる。

作業中止は義務ではなく、ガイドラインが望ましいとした水準だ。ファン付き作業服は、温度30度湿度85パーセントの運動実験で、同じ体温に到達するまで15分遅らせ、推定発汗量を約20パーセント減らす効果が確認されている。着用を前提に休憩を短くすることも可能とされるが、発症や重症化の早さは人によって大きく違うため、2人1組のバディで声をかけ合い健康状態を確かめることが必要だとも書かれている。

やらなかったときに何が起きるか

第612条の2は労働安全衛生法第22条に基づく省令の規定で、同法第119条第1号は第22条の違反に対して6月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金を定めている。第122条の両罰規定により、違反行為をした人が罰せられるほか、法人にも罰金刑が科される。掲示一枚と手順一枚の話で、ここまでつながっている。

厚生労働省がまとめた2025年の死亡災害19件の分析には、この義務の履行状況が入っている。第612条の2第1項の報告体制の整備と周知の実施を確認できなかったことが明らかな事例が2件、第2項の措置手順の作成と周知が3件。熱中症予防のための労働衛生教育の実施を確認できなかった事例は9件あった。

数字で見ると建設現場はどこにいるか

2025年の職場の熱中症による死傷者数は1,803人で、統計を取り始めた2005年以降で最多になった。2024年比で約43パーセント増。一方、死亡者数は19人と約39パーセント減っている。厚生労働省は、2025年夏の平均気温偏差が統計開始以来最高のプラス2.36度だったことを死傷者増の一因とし、規則改正で重篤化防止対策が進んだことが死亡災害の減少に一定程度つながったと分析している。

業種2025年の死傷者数うち死亡者数
製造業365人2人
建設業292人5人
商業237人2人
運送業220人1人
警備業199人3人
全業種1,803人19人

死傷者数は製造業が最多だが、死亡者数は建設業の5人が最も多い。5年間で見ると差はもっと開く。2021年から2025年の死傷者5,554人のうち建設業は1,038人で18.7パーセント。死亡者131人のうち建設業は52人で39.7パーセントを占める。

見落としやすいのは時間だ。5年間の死亡者131人のうち、17時台が20人、18時台以降が13人。厚生労働省は、日中は重篤な症状がみられなかったのに作業終了後や帰宅後に悪化した事案が含まれると指摘している。現場を上がった時点では判断できない。回復後の連絡体制を手順に書いておくのは、そのためだ。

明日から手をつける順番

  1. 現場ごとに報告先の名前と携帯番号を決めて 掲示物を1枚作る
  2. 離脱 冷却 受診と搬送先を書いた手順を1枚作る 元請と協力会社で共通の連絡先にする
  3. 朝礼で読み上げ 掲示した状態の写真を日付付きで残す
  4. WBGT計か環境省サイトで その日の数字を記録に残す
  5. 作業終了後に体調を聞き 帰宅後に悪化したときの連絡先を伝える

掲示と手順は一度作れば使い回せる。負担が続くのは、毎日の数字と声かけの記録のほうだ。日報や打刻とまとめて残せる形にしておくと、記録のために別の作業を増やさずに済む。労働基準監督署に聞かれたときに出てくるのは、結局その積み重ねになる。

よくある質問

熱中症対策の義務化はいつから始まりましたか
労働安全衛生規則の一部を改正する省令が2025年4月15日に公布され、2025年6月1日から施行されました。新設されたのは第612条の2です。それ以降、条件に当てはまる作業を行うときは、報告体制の整備と措置手順の作成、そして作業者への周知が事業者の義務になっています。
うちの現場は対象になりますか
WBGT値が28度以上または気温が31度以上の場所で、継続して1時間以上、または1日あたり4時間を超えて行われる見込みの作業が対象です。屋内も屋外も含み、複数現場を移動しながらの作業や移動中も対象に入ります。臨時の作業でもこの条件を満たす見込みがあれば対象になります。
WBGT計は買わないといけませんか
省令はWBGT計の設置を義務づけていません。対象かどうかは実測で判断するのが原則ですが、通風のよい屋外作業については天気予報や環境省の熱中症予防情報サイトで判断できる場合はそれで差し支えないとされています。例外にされているのはここまでで、屋内や輻射熱のある場所は実測で判断します。
一人親方や協力会社の職人も対象になりますか
対象になります。通達は「当該作業に従事する者」に労働者だけでなく、同じ場所でその作業に従事する労働者以外の者が含まれるとしています。条文の文言は2026年4月1日から「作業従事者」に変わりましたが、この言葉も労働者以外を含みます。建設現場のような混在作業では、元方事業者と関係請負人の事業者のいずれにも措置義務が生じ、措置が行われていなければその作業場に関わる全ての事業者に違反が生じます。
周知したことを記録に残す必要はありますか
周知した結果の記録の保存までは法令で求められていません。ただし通達は、労働基準監督署による確認に際して事業者として適切に対応することが求められるとしています。掲示物の写真や朝礼で伝えた日付を残しておくと、確認を受けたときに説明できます。
守らなかったときの罰則はありますか
第612条の2は労働安全衛生法第22条に基づく規定です。同法第119条第1号は第22条の違反に6月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金を定めています。第122条の両罰規定により、違反行為をした人だけでなく法人にも罰金刑が科されます。

出典: 労働安全衛生規則(昭和47年労働省令第32号)第612条の2 e-Gov法令検索

出典: 労働安全衛生法(昭和47年法律第57号)第22条 第119条 第122条 e-Gov法令検索

出典: 厚生労働省 労働安全衛生規則の一部を改正する省令(令和7年厚生労働省令第57号)

出典: 厚生労働省 労働安全衛生規則の一部を改正する省令の施行等について(令和7年5月20日付け基発0520第6号)

出典: 厚生労働省 職場における熱中症防止のためのガイドライン(2026年3月26日公表)

出典: 厚生労働省 2025年(令和7年)職場における熱中症による死傷災害の発生状況(確定値)

出典: 厚生労働省 職場における熱中症予防情報サイト

SOKUOYAKATA編集部

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