現場の書類を減らす話は、たいてい道具の話から始まる。順番が逆になっている。先に決まっているのは法令のほうで、電子にしてよい書類と、電子にしても紙のときと同じ手間が残る書類は、すでに条文で分かれている。分かれ目を知らずに道具から入ると、入れたのに紙も刷り続けることになる。
この記事では、現場でよく出てくる4種類の書類について、電子に替えてよい範囲と、替えたあとに何が消えて何が残るかを並べる。数字と条文の出どころは最後にまとめてある。
先に結論 替えられる順番は決まっている
| 書類 | 電子にしてよいか | 替えても残る手間 |
|---|---|---|
| 請負契約書 | できる(建設業法19条3項) | 相手方の事前承諾を取る |
| 施工体制台帳 | できる | 現場に備え置いて見せられる状態にする |
| 注文書・請求書・領収書 | できるどころか、電子で受けたら電子で保存する義務がある | 改ざん防止の措置と検索できる形にする |
| 工事写真・日報 | できる | 保存期間は紙のときと同じ |
表のうち3つ目だけ性質が違う。あとの3つは「紙でも電子でもよい」だが、電子取引のデータだけは「電子で受け取ったら、電子のまま保存しなければならない」。ここを紙に刷って捨てている会社が多い。
請負契約は相手の承諾が先にいる
建設工事の請負契約は、建設業法19条3項で電磁的措置による締結が認められている。ただし無条件ではない。あらかじめ電磁的措置の種類と内容を示したうえで、書面または電磁的方法で相手方の承諾を得る必要がある。国土交通省のガイドラインは、技術的基準として次の3つを挙げている。
- 公開鍵暗号方式による電子署名
- 電子的な証明書の添付
- 電磁的記録などの保存の措置、またはこれと同等の効力を有すると認められる措置
承諾を取らずに電子で送った契約は、建設業法19条が求める書面の交付をしたことにならない。相手が読んで押したとしてもだ。最初の1社に送る前に、承諾を取る手順を決めておく。
承諾は取引ごとに取り直す必要はないが、電磁的措置の種類を変えたときは取り直す。サービスを乗り換えたら、そこで一度全部取り直すことになる。
施工体制台帳は電子でも現場に置く
施工体制台帳と施工体系図は、電子で作って電子で保存してよい。国土交通省は電子契約を行った場合の取扱いについてガイドラインを出していて、電子で締結した下請契約書を台帳に添付する場合の扱いも示している。
ただし台帳には「現場に備え置く」という条文があり、ここは電子にしても消えない。端末を現場に置く、あるいは求められたその場で画面に出せる状態にしておく必要がある。回線の届かない現場では、端末の中に落としておく形になる。
電子にして実際に消える手間
- 下請から集めた書類を綴じ直す作業
- 作業員が入れ替わるたびに差し替える印刷
- 元請から「最新のものを送れ」と言われたときの探し直し
電子で受け取った請求書は紙にできない
ここだけは選べない。電子帳簿保存法では、注文書・契約書・送り状・領収書・見積書・請求書などに相当するデータを電子でやり取りした場合、そのデータを電子のまま保存する義務がある。受け取った場合だけでなく、送った場合も対象になる。令和6年1月からは、紙に印刷して保存する方法は原則として認められない。
保存のときに満たす要件は、改ざん防止の措置と、日付・金額・取引先で検索できることの2つが柱になる。改ざん防止は、訂正削除の記録が残るシステムを使うか、事務処理規程を定めて守るかのどちらかでよい。規程を定める方法なら、道具を買わずに始められる。
要件に沿えないときの逃げ道
国税庁は猶予措置を置いている。要件に従って保存できなかったことについて所轄税務署長が相当の理由があると認め、かつ税務調査のときにデータのダウンロードの求めと、それを印刷した書面の提示・提出に応じられる場合は、要件に沿った対応は不要になる。事前の申請もいらない。
猶予措置は「紙で保存してよい」ではない。データそのものは残しておく必要がある。メールの添付ファイルを開いて印刷し、メールを消すやり方は、猶予措置でも通らない。
写真と日報は保存期間が変わらない
工事写真も日報も電子で構わない。むしろ公共工事では電子納品が前提になっている。ただし電子にしたからといって保存期間は短くならない。建設業法が求める帳簿と図書の保存、労働安全衛生法が求める記録の保存は、媒体が何であっても同じ年数だけ残す。
電子にして効くのは、期間ではなく探す時間のほうだ。工事名と工種と撮影日で引けるようにしておくと、検査で求められた1枚を出すまでの時間が変わる。逆に、端末の中のフォルダに日付だけで積んでいくと、紙のバインダーより探しにくくなる。
先に決めておく3つ
- ファイル名の付け方。工事名・工種・撮影日を必ず入れる
- 誰が入れるか。現場で撮った人がその場で入れるのか、事務所でまとめて入れるのか
- いつ捨てるか。保存期間を過ぎたものを消す日を決めておかないと、容量だけが増える
順番をつけるなら
| 順番 | やること | 理由 |
|---|---|---|
| 1 | 電子で受け取った請求書と注文書を、消さずに残す置き場を決める | これだけが義務。やらないと是正の対象になる |
| 2 | 写真のファイル名の付け方を決める | 道具を買わずに始められて、効果がすぐ出る |
| 3 | 請負契約の電子化について、相手方の承諾を取る手順を決める | 承諾が先。道具を入れてからでは順番が逆になる |
| 4 | 施工体制台帳を電子で作り、現場で出せる状態にする | 備え置きの条文が残るので、出し方まで決めてから替える |
1と2は今日から始められる。3と4は相手と現場の事情があるので、1件の工事で試してから広げるほうが早い。全部を同時に替えようとすると、紙と電子が混ざった期間が長くなり、探す場所が2つになる。
替えても消えない手間
- 相手が紙しか受け付けない場合の、紙での交付
- 現場で求められたときに、その場で見せられる状態を保つこと
- 保存期間が過ぎるまで、消さずに持ち続けること
この3つは、どの道具を入れても残る。逆に言えば、この3つを除いた作業はすべて減らせる余地がある。減らす先を探すときは、まずこの3つに当たらないかを見ると早い。
明日から変えられること
- メールやクラウドで受け取った請求書・注文書を、印刷して原本を捨てていないか確かめる
- 捨てていたら、今月ぶんから元のデータを残す置き場を1つ決める
- 改ざん防止は、まず事務処理規程を定める方法で始める。国税庁が様式を出している
- 写真のファイル名に、工事名と工種と撮影日を必ず入れる規則を決める
よくある質問
- 紙で受け取った請求書も電子にしないといけないのか
- いいえ。義務があるのは電子で受け取ったデータだけです。紙で受け取ったものは紙のまま保存して構いません。スキャンして電子で保存することもできますが、その場合はスキャナ保存の要件を満たす必要があるので、無理に替えなくても差し支えありません。
- 電子契約にすると印紙税はどうなるのか
- 電磁的記録として作成し交付した場合、印紙税法上の課税文書には当たらないとされています。紙で作成して交付すれば課税文書になります。ただし電子で作ったものを紙に印刷して相手に渡すと、その紙が課税文書になり得るので、運用を分けておく必要があります。
- 施工体制台帳を電子にしたら、現場には何を置けばよいのか
- 条文が求めているのは備え置きなので、求められたその場で内容を示せる状態にしておけば足ります。回線が届く現場なら端末1台で足りますが、届かない現場では端末の中にデータを落としておく運用にします。紙を1部置いておく併用も認められています。
- 電子取引のデータを保存していなかったらどうなるのか
- 青色申告の承認取消の対象になり得ますが、国税庁は保存がなかったことだけを理由に直ちに取り消すことはないとしています。ただし取引の事実が確認できなければ、経費として認められない可能性があります。過去分はさかのぼれないので、気づいた月から残す形にします。
- 小さい会社でも電子帳簿保存法の対象になるのか
- なります。法人か個人か、規模がいくつかは関係ありません。電子でやり取りしていれば対象です。ただし要件に沿って保存できない相当の理由がある場合の猶予措置があり、事前の申請も不要なので、まずデータを消さずに残すことから始めれば大きな問題にはなりません。
出どころ
出典: 国土交通省 電磁的措置による建設工事の請負契約の締結に係るガイドライン
SOKUOYAKATA編集部



